2003年12月〜2004年1月の期間に、茨城県潮来保健所管内でノロウイルスが原因であると考えられる集団嘔吐下痢症が6件発生した。
事例1:2003年12月9日を初発とし、小学校において524名中79名が嘔吐・下痢等を呈し欠席した。学校給食は近くの共同調理場で作られており、この小学校を含めて5校に提供しているが、他校では同様の症状を呈した児童は見られなかった。RT-PCR法(平成15年11月5日付厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長通知「ノロウイルスの検出法について」に準拠)によりノロウイルス検査を実施したところ、発症者便からノロウイルスが検出され(56%)、ロタウイルス検査(イムノクロマト法)および食中毒菌検査(食品衛生検査指針および微生物検査必携に準拠)では不検出であった。また、発症者はほぼ1クラスに集中して発生していたため、食中毒ではなく、感染症である可能性が高いと考えられた。
事例2:2003年12月15日を初発とし、保育園において234名中98名が嘔吐・下痢等を呈し欠席した。発症者の共通食は園内の単独調理場で作られた給食であった。発症者便から高率にノロウイルスが検出され(88%)、ロタウイルスおよび食中毒菌は不検出であった。発症日時のバラつきが大きかったことから、感染症の可能性が高いと考えられた。また、事例1の小学校とは比較的近距離にあるため、家庭において兄弟間で二次感染があった可能性もある。
事例3:2003年12月16日を初発とし、忘年会に参加した会社員34名中9名が嘔吐・下痢等を呈し、工業団地内にある診療所を受診した。発症者の共通食は飲食店を貸し切って行われた忘年会の食事であったため、施設や対象者の特定は容易であった。疫学調査において有意差が最大であった生カキ(表)は、残品が無く検査できなかった。しかし、発症者便から高率にノロウイルスが検出され(83%)、発症時間も生カキ喫食後26〜37時間に集中していた。生カキは当日昼に納入されたもので、その取り扱いに不備は見られなかった。産地は東北地方某湾で、2002年12月に同じ茨城県内で起こったノロウイルスによる食中毒事件において原因食品として疑われたカキと同一であった。
事例4:2003年12月23日を初発とし、他都道府県よりサッカーの試合または合宿に参加するため旅館に宿泊していた高校生・大学生等10グループ243名中136名が嘔吐・下痢・発熱等を呈し、うち78名が入院した。発症者便および調理従事者便から高率にノロウイルスが検出され(100%)、ノロウイルス陽性であった調理従事者が、実は以前より下痢気味であったことが判明した。疫学調査の結果から、この旅館で作られた23日(昼)の弁当を原因食品と推定した。発症時間は弁当喫食後24〜48時間に集中していた。1グループで発症の集中がやや遅れており、これは到着日が他のグループより1日遅く、二次感染によって発症したと考えられた。また、入院者が多数出たのは、合宿中で体力が低下していたことが影響していると考えられた。
事例5:2004年1月4日を初発とし、特別養護老人ホームにおいて140名中56名が嘔吐・下痢等を呈し、うち1名が入院した。発症者便および吐物からノロウイルスが検出され(73%)、ロタウイルスおよび食中毒菌は不検出であった。ホーム内にある給食施設のふきとり検体、調理従事者便、保存検食からは原因となるような病原体は検出されなかった。発症日時のバラつきが大きく、また、給食を食べていない職員も4日に発症していることから、感染症の可能性が高いと考えられた。
事例6:2004年1月11日を初発とし、老人保健施設において182名中48名が嘔吐・下痢等を呈し、うち2名が入院した。事例5の施設とは同じ敷地にあるが、玄関は互いに逆を向いており、入所者、職員の行き来はない。ただ、デイケアで両施設を利用する者がいるが、これが原因となったか否かは不明である。発症者便および吐物からノロウイルスが検出され(71%)、ロタウイルスおよび食中毒菌は不検出であった。給食施設は同じ敷地にあるケアハウス内にあり、そこで2施設分作られているが、発症者がこの施設に限られ、ケアハウスではいないことから、食中毒ではなく感染症である可能性が高いと考えられた。
ノロウイルスは、地域において食中毒と感染症が交互に起こることによってもその存続が維持されていると思われる。実際、上記6事例は隣接する2つの町内という地域で発生しており、それぞれ何かしらのつながりがあった可能性がある。
また、事例3のように食中毒事件となり、二枚貝を疑う場合には、遡り調査をする必要がある。本事例では出荷者にまで遡ることができた。生産現場では、毎週月曜日にロットごとの抜き取りによる試験検査を実施してノロウイルス陰性であることを確認し、その翌週に出荷しているが、出荷前のノロウイルス検査結果は陰性であり、他に苦情はないとの報告を受けた。このため、これ以上の原因究明には至らなかった。こうしたことから、全国規模で同様の食中毒発生の有無等についてのサーベイランスと評価が必要ではないかと思われる。
発症日時と発症者数の関係を各事例で比較すると(図)、一気に発症者が発生して一峰性を示す事例は食中毒、少数の発症者に続いて発症者が増えていき多峰性を示す事例は感染症である傾向が読みとれる。しかし、感染症が爆発的に起これば一峰性を、また、食中毒後に二次感染が起これば多峰性を示す可能性も考えられ、一概には判断できない部分もある。
これまでの経験から、食中毒の要素があるとされるのは、「患者が発生した複数の施設をつなぐものが同一の食事であるような場合」、「疫学調査において特定の食品が有意である場合」、「食品からノロウイルスが検出される場合」、「衛生管理が悪く、検査で他の細菌も多数検出される場合」と考えられる。逆に食中毒の要素がないとされるのは、「共通食がない場合」、「1つの調理場から複数の施設へ給食されていても患者が1施設に限られるような場合」、「調理施設が衛生的で食品の取り扱いにも不備がなく、食品からノロウイルスが検出されない場合」と考えられる。
食中毒であったか否かの判断方法については、今後ともさらなる検討が必要である。
茨城県潮来保健所 秋月美佳 吉澤良知 比気正雄 緒方 剛