2003/04シーズンのインフルエンザ流行のインパクト

(Vol.25 p 285-286)

2003/04シーズンのインフルエンザは、最近10シーズンの中でも、中規模の流行に留まった。これには、2002/03シーズンが比較的大きな流行であったこと(本月報Vol.24、281-282参照)、A/H3N2型が中心の流行でしかも前シーズンと同じ流行株であったこと、予防接種率も前年より上昇したことなど、流行の規模を抑制し得る幾つかの理由が考えられる。しかし前シーズンの 2/3の規模とはいえ、感染症発生動向調査から推定した全国の患者数は923万人(2002/03シーズン1,450万人、2001/02シーズン787万人)と1,000万人近くがインフルエンザ様疾患で外来受診したことになる。

感染症発生動向調査は週単位であり、さらにそのシステム上2週間は報告が遅れることから、インフルエンザ流行期にその拡大やピークを把握するには残念ながら適していない。そこで1999年度より流行初期の情報を補うことを目的として、インフルエンザ定点(5,000定点)のうち約1割を対象に、インターネットを利用して「インフルエンザによる患者数の迅速把握事業(毎日患者報告)」を実施している(図1)。患者の発生を初診日で報告するために、曜日効果が非常に強くみられ、図はその補正を行っている。2月2日に患者受診のピークがみられる。また、有志の医師による報告システムである「MLインフルエンザ流行前線情報データベース」による流行曲線も、比較のために図1に示している。このデータベースは初診日ではなく、発症日を基準としており、患者発生のピークは2月1日である。両者の違いについては別途詳しく記述してある1)。

インフルエンザ流行の社会へのインパクトの評価には超過死亡(インフルエンザ流行に関連して生じたであろう死亡)数を用いる。「感染研」モデル2)による超過死亡数の推定を図2に示したが、2003/04シーズンは2004年2月だけに認められ 2,400人と、11,000人の2002/03シーズンに比べ非常に少なかった(図2)。

他方で、「インフルエンザ疾患関連死亡者数迅速把握」事業は、厚生労働省健康局結核感染症課によって、1999年度より当初全国を対象とし、2000/01シーズンより13大都市(政令指定都市および東京特別区)が参加して、インフルエンザ・肺炎死亡数の把握のために実施されている。前2シーズンは報告遅れも多く、シーズン終了後に事後的解析を行っており、シーズン中の対策に生かせるような超過死亡数の推定は困難であった。新たに、2003/04シーズンからさいたま市を加え14大都市における「インフルエンザ・肺炎死亡」による超過死亡数の迅速な把握と、情報還元が行われるようになった。この事業における週単位の迅速な報告を生かし、解析を平行して行うことで、2003/04シーズンからシーズン中の超過死亡数の情報還元を可能にした。ただし、2003/04シーズンから参加したさいたま市は報告を行っているが、新たな参加であるために統計的解析に必要な過去の情報を利用することができない。したがって、残念ながらさいたま市はこのシーズンでの解析の対象には含まれていない。この問題も2004/05シーズンには解消される予定である。実際には、参加都市からの死亡数の報告より約2週間遅れで超過死亡数を「インフルエンザ関連死亡迅速把握システム(http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/inf-rpd/index-rpd.html)」において提供した(図3)。この図の解釈において、若干注意を必要とする点は、「感染研」モデルを用いた超過死亡が、人口動態統計に報告された月単位の全死亡データを解析しているのに対し、この事業では週単位で各都市から死亡届に基づいて報告されたインフルエンザ・肺炎死亡を解析していることである。さらに、そのインフルエンザ・肺炎死亡の定義は、国の人口動態調査よりも広くなっている。つまり、人口動態調査は原死因による統計であるが、この事業では原死因であるか否かを問わず、死因のいずれかにインフルエンザあるいは肺炎が含まれていれば報告されている。したがって、この二つの超過死亡の概念は異なっており、直接的に比較することはできない。現在、2004/05シーズンに向けて、より精度の高い14大都市の超過死亡の推定方法を検討中である。

 文 献
1)大日康史「インフルエンザの流行状況把握システム」, 季刊インフルエンザ2004年10月号
2)大日康史、他、病原微生物検出情報 24(11): 288-289, 2003

国立感染症研究所・感染症情報センター 大日康史 重松美加 谷口清州

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