The Topic of This Month Vol.24 No.11(No.285)

インフルエンザ 2002/03シーズン

(Vol.24 p 281-282)

日本における2002/03シーズンのインフルエンザは、 前半はAH3型、 後半はB型が主の混合流行で、 AH1型の流行はなかった。1999年4月の感染症法施行後では最大の流行であった。AH3型は同シーズンのワクチン株に対しHI価で4倍以上抗原変異したウイルスが6割を占めた。B型はビクトリア系統に入るワクチン株類似のウイルスが主流であった。

一方、 香港では2003年2月にA/H5N1型感染死亡例、 オランダでは4月にA/H7N7型感染死亡例が報告され、 新型インフルエンザへの警戒が一層高まっている。

患者発生状況:感染症発生動向調査では、 インフルエンザ定点全国約5,000医療機関(小児科3,000、 内科2,000)から、臨床診断されたインフルエンザ患者数が週単位で報告される。2002/03シーズンは、 過去10シーズンと比べて、 ピークの高さは4番目であったが(http://idsc.nih.go.jp/kanja/weeklygraph/Influ.html)、 定点当たり患者数(シーズン全体の累積)は259.5で、 1994/95シーズン(288.3)、 1992/93シーズン(276.1)に次ぎ3番目に多かった。2002年第50週に全国レベルで定点当たり 1.0人を超えた後、 急激に増加した。2003年第4週をピークに減少し、 第15週には定点当たり1.0以下になった(図1)。都道府県別にみると(図2)、 九州で早く、 東北・北海道で遅れて患者報告が増加した。青森、 秋田では第17週、 鳥取では第18週まで定点当たり1.0以上の報告が続いた。年齢群別でみると(表1)、 3〜5歳をピークに0〜9歳の患者が約6割を占めていた。

インフルエンザによる関連死亡:2000/01、 2001/02シーズンは、 国民の総死亡数でみたインフルエンザによる超過死亡は少なかったが、 2002/03シーズンには約11,000人の超過死亡があったと推計された(本号8ページ参照)。

ウイルス分離状況:2002/03シーズンに、 全国の地方衛生研究所から報告されたインフルエンザウイルス分離例は、 AH3型4,850例、 B型2,451例であり、 AH1型は1例のみであった(本月報Vol.24、 No.5参照)(2003年10月17日現在:表2)。AH3型、 B型ともに2002年第46週に初めて分離され、 AH3型は2002年12月初めから増加して2003年第4週がピーク、 B型は遅れて1月半ばから増加して2003年第6週がピークとなった。B型は5月まで分離が続いた(図1)。都道府県別にみると、 AH3型、 B型ともにほぼ全国で分離されたが、 沖縄、 福島、 札幌では、 B型ウイルスの分離報告が第20〜23週まで継続した(http://idsc.nih.go.jp/prompt/graph/in15j.gif)。非流行期の7月に台湾、 カナダ、 8月に中国(上海)、 オーストラリアからの帰国者からAH3型が分離された(本月報Vol.24、 No.10速報参照)。インフルエンザウイルス分離例の年齢分布をみると、 AH3型は1歳をピークに低年齢層から高齢者まで分離報告が多かった。B型は2001/02シーズンに比べ年齢層が低い方にシフトし、 5〜9歳からの分離が45%を占めた(図3)。6〜8歳ではB型の報告数がAH3型の報告数を上回ったが、 その他の年齢層ではAH3 型の報告数の方が多く、 成人で年齢が高いほどAH3型の割合が大きかった。

ウイルス抗原解析:2002/03シーズンに分離されたAH3型の42%はA/Panama/2007/99(同シーズンワクチン株)類似株であったが、 HI価で4倍以上抗原変異したウイルスが58%に増加した。B型は1989/90シーズン以降、 山形系統のウイルスが主流であったが、 2001/02シーズン後半にはビクトリア系統が主流となり、 2002/03シーズン中には分離されたB型の大部分が同系統に属するB/Shandong(山東)/7/97(同シーズンワクチン株)類似株であった(本号3ページ参照)。

国内外での流行状況にワクチン株としての条件を加味し、2003/04シーズンのワクチン株は、 2002/03シーズンと同じA/New Caledonia/20/99(H1N1)、 A/Panama/2007/99(H3N2)、 B/Shandong/7/97が選択された(本月報Vol.24、 No.9 通知 13ページ参照)。

高齢者のインフルエンザワクチン接種率:2001年に改正された予防接種法に基づく高齢者(主として65歳以上)に対する接種率は2001/02シーズン27%、 2002/03シーズン35%であった(厚生労働省医薬食品局血液対策課)。

新型インフルエンザ:2003年2月、 香港において、 福建省から戻り肺炎を発症した親子よりトリ型インフルエンザウイルスA/H5N1型が分離された(父親は死亡)(本月報Vol.24、 No.3参照)。また、 オランダでは2003年2月末より養鶏場で病原性の高いトリ型インフルエンザウイルスA/H7N7型が流行した。4月に死亡した獣医からA/H7N7型遺伝子が検出された。鶏の殺処分に携わった職員82名でもA/H7N7型感染が確認され、 家庭内での人から人への感染も確認されている(本月報Vol.24、 No.6参照)。

2003/04シーズン前の抗体保有状況速報:感染症流行予測調査によると(本号9ページ参照)、 2003年7〜9月に採血された健常人のHI抗体価40以上の抗体保有率は以下の通り。A/H1N1型(A/New Caledonia/20/99):5〜19歳約50%、 0〜4歳、 20代と60歳以上は約20%、 30〜50代5〜20%。A/H3N2型(A/Panama/2007/99):5〜19歳は60〜80%、 0〜4歳と20〜50代は20〜40%、 60歳以上は約45%。B型ビクトリア系統株(B/Shandong/7/97):20〜30代と60歳以上は約20%、 0〜19歳と40〜50代は10%以下。B型山形系統株(B/Shanghai/44/2003):5〜19歳ではB/Shandong/7/97 より高いが、 その他の年齢層では低い。

2003/04シーズンウイルス分離速報(http://idsc.nih.go.jp/prompt/graph-kj.html):B型が2003年9月4日に沖縄で(本月報Vol.24、 No.10速報参照)、10月25日に愛知で成人各1例から、AH3型が9月12日〜19日に長崎で散発例の小児4例から分離されている(本号14ページ参照)(2003年11月7日現在)。

今冬は新型インフルエンザの出現、および重症急性呼吸器症候群(SARS)再流行の監視・対策が最重要課題である(本月報Vol.24、 No.10、 本号11ページ参照)。わが国でも2003年11月5日に感染症法が改正施行され、 1類感染症に「SARS」、 新4類感染症に「高病原性鳥インフルエンザ」が追加された。インフルエンザウイルスとSARSコロナウイルスの鑑別はもとより、 ヒトメタニューモウイルス(本月報Vol.24、 No.3No.7参照)やRSウイルスなど、 多くの呼吸器疾患病原体との鑑別のため、 病原体検査と病原体情報の一層の強化と連携が望まれる。

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