急性脳炎は、昨年の感染症法一部改正(2003年11月5日施行)によって基幹定点からの報告による定点把握疾患から5類感染症全数把握疾患に変更され、診断したすべての医師に届出が義務づけられている。届出の対象は、4類感染症に規定されているウエストナイル脳炎および日本脳炎を除き、それ以外の病原体によるもの、病原体不明のものである。また、炎症所見が明らかでなくとも、同様の症状を呈する脳症も含まれる。この変更は、近年インフルエンザ脳炎・脳症や、エンテロウイルス71型による重篤な急性脳炎の発生などが問題となっている中、種々の原因による急性脳炎の出現や、過去に国内で認識されていなかった病原体の流行を、病原体不明の時点であっても確実かつ迅速に捉えることの重要性からである。当初、インフルエンザ脳炎や麻しん脳炎など、原疾患が届出対象であるものは除くと解釈されていたが、厚生科学審議会感染症分科会の審議を経て、2004年3月1日以降はこれらも届出の対象となった[厚生労働省結核感染症課長通知、2004(平成16)年2月26日健感発第 0226001号]。なお、届出時点で病原体不明なものについては可能な限り病原体診断を行い、明らかになった場合には追加で報告することが求められている。
急性脳炎としては、2003年11月5日〜2004年8月末までに58例の報告があった(図1)。男性、女性各29例で性差は認められなかった。年齢群別(10歳ごと)では、10歳未満22例(38%)、10代2例、20代7例、30代8例、40代5例、50代8例、60代1例、70代5例であった。病原体については、細菌3例(結核菌、サルモネラ菌、ペニシリン耐性肺炎球菌各1)、ウイルス25例(ヘルペス科ウイルス13、インフルエンザウイルス5、ムンプスウイルス4、麻しんウイルス1、EBウイルス1、ロタウイルス1)で、病原体不明が30例あった。ヘルペス科ウイルス13例の内訳は、単純ヘルペスウイルス11例、不明2例であり、インフルエンザウイルス5例の内訳は、AH3型2例、A亜型未同定3例であった。20歳未満ではインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、20歳以上では単純ヘルペスウイルスが多く、年齢により病原体に違いが認められた(図2)。また、麻しんウイルスを原因とする症例は成人女性であった(本月報Vol.25, 182-183参照)。9月1日までの結果では死亡は9例(16%)で、単純ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルスA(亜型未同定)、麻しんウイルス、ロタウイルスによるものが各1例で、病原体不明が5例であった。病原体や転帰については、各自治体の協力を得て、1カ月以上を経過した後、できる限りの再調査を行い、情報収集した結果を示すものである。
対象疾患となってからの約10カ月間に、1例も報告のない都道府県が22都道府県であり(図3)、また、報告された58例のうち12例(20%)は4つの医療機関からの報告で占められていた。未報告の症例が多く存在することが推測され、急性脳炎が届出対象疾患であることの周知徹底が必要である。
また、病原体不明が半数以上を占めているが、病原体の特定は、診療の場における早期診断・治療やワクチンなどによる予防対策に必要であるので、より積極的な病原体検索が望まれる。病原体の検査を正確に行うことは、原因究明および感染拡大防止の観点から、感染症対策において極めて重要であり、医療機関、保健所、地方衛生研究所、国立感染症研究所などが連携し、円滑かつ的確に検査を実施することが重要と考える。
国立感染症研究所・感染症情報センター 多田有希 上野久美 岡部信彦