東京都では、感染症発生動向調査(以下、発生動向調査と略す)定点から昨年より2週早い2004年の第41週に今シーズン初のインフルエンザ患者3名が報告された。その後、第42週に26名、第48週までに 154名の報告があった。この流行はA香港型(AH3型)による幼稚園を中心とした地域流行であった(IASR 25: 336参照)が、第49週からは小学校での集団発生へと拡大した。同時期に都内4地域でもAH3型による集団発生が起こり、流行が拡大していることが推察された。年末〜2005年1月初旬までは大きな流行は確認されなかったが、発生動向調査により搬入された2名の男児検体から東京都では3年ぶりとなるAソ連型(AH1型)を検出した。1月中旬からは本格的なインフルエンザ流行期に突入し、学校での集団発生および発生動向調査での患者発生数が急増した。この流行はAH3型とB型による混合流行であった。B型の流行は例年、時期が遅く、規模も小さかったが、今シーズンは流行が急速に広がり、先行していたAH3型流行と併せて、2005年の第6週には、定点あたり患者数が30人を超え、東京都では7年ぶりにインフルエンザ流行発生警報が発令されるなど、大きな流行となった(図1)。
発生動向調査により定点病院で採取された咽頭ぬぐい液ならびに集団発生により採取した咽頭うがい液について、PCR法による遺伝子検査およびウイルス分離検査を実施し、得られた分離株について遺伝子解析を行った。すなわち、今シーズン前半の流行株であるAH3型分離株、発生動向調査により検出されたAH1 型分離株、流行拡大時のB型分離株の遺伝子をRT-nested-PCR法により検出し、PCRプロダクトを用いたダイレクトシーケンスによりHA領域の一部の塩基配列を決定後、分子系統樹解析を行った。その結果、AH3型分離株A/Tokyo(東京)/1019/2004等は、今季ワクチン株であるA/Wyoming/3/2003(H3N2)株を含んだ群に大別されるものの、そこから分枝した株であることが判明した(図2)。また、AH1型分離株A/Tokyo(東京)/1454/2005は、過去5シーズンにわたってワクチン株となっているA/New Caledonia/20/99(H1N1)株に近縁な株であり、3年前の分離株と比べ、ほとんど変わりが無いことが判明した。一方、B型分離株B/Tokyo(東京)/1290/2004等は、今季ワクチン株であるB/Shanghai(上海)/361/2002株に近縁な山形系統のB型株であるが、系統樹上では近年の主要な分離株の遺伝子変異傾向よりも上流側に位置し、1996年に流行した株に近い位置にあった。また、昨年2月以降に都内における散発発生で検出された株と近縁であった(図3)。
これらの分離株を国立感染症研究所配布のインフルエンザサーベイランスキットならびにデンカ生研製ワクチン株抗血清を用いたHI試験(0.7%のモルモット赤血球液を使用)に供した結果、AH1型分離株はA/New Caledonia/20/99株抗血清(ホモHI価 1,280倍)に対して640倍のHI価を示し、AH3 型分離株はA/Wyoming/3/2003(H3N2)株抗血清(ホモHI価 5,120倍)に対して2,560〜5,120倍のHI価を有していた。また、B型分離株も、B/Shanghai/361/2002株抗血清(ホモHI価 160倍)に対して80〜160倍のHI価を有していたことから、今回分離したすべての株は、今季ワクチン株と高い交叉反応性を持つ株であることが明らかになった。
今季、東京都で検出されたインフルエンザウイルスは、北半球で流行しているAH1型およびAH3型と近縁なウイルスである。しかしながら、欧州では、現在日本で流行の主流を占めている山形系統のB型株とは異なるビクトリア系統のB型株も流行しており、今後、日本でも増えてくる可能性も考えられるので注意が必要である。
東京都健康安全研究センター・微生物部ウイルス研究科
新開敬行 貞升健志 長谷川道弥 田部井由紀子 岩崎則子 甲斐明美