2004/05シーズンインフルエンザ流行のインパクト

(Vol.26 p 293-295)

2004/05シーズンのインフルエンザは、B型とA/H3N2型が混合した流行で、最近10シーズンの中でも大規模なものとなった。感染症発生動向調査から推定した全国の患者数は1,770万人(2003/04シーズン923万人、2002/03シーズン1,450万人)と、流行の開始は1月中旬と遅かったが、流行の継続期間が長く、ピークも大きかったことを反映し、インフルエンザ様疾患で外来受診した人数は最近10シーズンと比較し最多となった。これには、2003/04シーズンまで連続して同じ株のA/H3N2型が中心の流行であったのに対し、本シーズンがB型中心の流行であり、流行予測調査(http://idsc.nih.go.jp/yosoku/Flumenu.html)にあるように、B型のHI抗体保有率は最大でも50%(山形系統株)であったこと、さらにシーズンの後半になって地域的にA/H3N2型株による感染が見られるようになったことなど、いくつかの理由が考えられる。

感染症発生動向調査を補い、インフルエンザ流行初期にその拡大やピークを把握することを目的として、1999年度よりインフルエンザ定点(5,000定点)のうち約1割を対象に、インターネットを利用した「インフルエンザによる患者数の迅速把握事業(毎日患者報告)」を実施している(図1)。2004/05シーズンから初診日に加え発症日の報告も得られるようになり、インフルエンザの実勢を反映し、曜日効果の少ないデータとなった。2月28日に患者受診のピークがみられる。また、有志の医師による報告システムである「MLインフルエンザ流行前線情報データベース(MLflu)」による流行曲線とも非常に良く相関している。MLfluは、厚生労働科学研究(「効果的な感染症発生動向調査のための国及び県の発生動向調査の方法論の開発に関する研究」)の一環として、医師の自発的な意思による参加で運用されているが、病気の鳥やブタとの濃厚な接触やタミフルの無効例なども念頭におき、パンデミックに対応するために通年運用されている。また、臨床・診断・治療・経過についての情報量も豊富であり、昨年からは石川県の小児科医有志との連携も実現し、各地域でのインフルエンザ対策のツールとしての活用も期待されている。両システムについては別途詳しく記述してあるが1)、毎年のインフルエンザ流行に対してだけでなく、パンデミック対策としても、このような既存のリアルタイムで正確なサーベイランスシステムの有効活用が期待される。

インフルエンザ流行の社会へのインパクトの評価には超過死亡(インフルエンザ流行に関連して生じたであろう死亡)数を用いる。「感染研」モデル2)による超過死亡数の推定を図2に示したが、2004/05シーズンは2月〜4月にわたって認められ、15,100人と最近10シーズンで2番目に多かった。

他方で、「インフルエンザ疾患関連死亡者数迅速把握」事業は、1999年度から厚生労働省健康局結核感染症課によってインフルエンザ・肺炎死亡数の把握のために実施されているが、2004/05シーズンは14大都市(政令指定市および東京特別区)が参加している。2003/04シーズンからはシーズン終了後の事後的解析に加え、シーズン中の対策に生かせるように、週単位の「インフルエンザ・肺炎死亡」による超過死亡数の迅速な把握に平行し、解析および情報還元が行われるようになっている3)。実際には、参加都市からの死亡数の報告より約10日遅れで超過死亡数を「インフルエンザ関連死亡迅速把握システム(http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/inf-rpd/index-rpd.html)」において提供した(図3)。既に5シーズンを越えて継続されていることから、各都市の基線が安定してきており、より正確に流行中のインフルエンザのインパクトを示すことができるようになっている。この図の解釈においては、「感染研」モデルを用いた超過死亡が、人口動態統計に報告された月単位の全死亡データを解析しているのに対し、この事業では週単位で各都市から死亡届けに基づいて報告されたインフルエンザ・肺炎死亡を解析していることに、注意を払う必要がある。また、そのインフルエンザ・肺炎死亡の定義も、国の人口動態調査が原死因による統計であるのに対し、この事業ではより広くなっており、原死因であるか否かを問わず、死因のいずれかにインフルエンザあるいは肺炎が含まれていれば報告される。したがって、このふたつの超過死亡の概念は異なっており、直接的に比較することはできない。

文 献
1)大日康史, 「インフルエンザの流行状況把握システム」,季刊インフルエンザ2004年10月号
2)大日康史, 他,IASR 24(11): 288-289, 2003
3)大日康史, 他,IASR 25(11): 285-286, 2004

国立感染症研究所・感染症情報センター 大日康史 重松美加 谷口清州

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