ハリケーン・カトリーナは2005年8月29日に上陸し、米国メキシコ湾岸に甚大な被害をもたらした。8月29日〜9月11日の間に2つの州(ルイジアナ州、ミシシッピ州)の住民の間で、22例のビブリオ感染症(5例死亡)が発生した(図)。環境からの感染であり、人→人への感染伝播で集団発生を生ずるとは考えにくい。毒素産生性コレラ菌O1、O139は認められなかった。臨床上ビブリオ感染症の知識を高め、適切な培養を行い、特に外傷患者について、ビブリオ感染を想定したエンピリック治療を行うことが強く求められている。9月5日以降の発症での確定例は出ていないが、さらなる症例の調査中を行っている。
ハリケーン後のビブリオ感染症例の定義は、ハリケーンによる被害のあったアラバマ州、ルイジアナ州、ミシシッピ州の住民で、発症が8月29日〜9月11日で、創傷部位、血液、あるいは便の培養でビブリオが検出された者とされた。創傷関連ビブリオ感染症例は、洪水前または最中に、創傷または擦過傷を受けたために罹患した可能性が高い者と定義された。
創傷関連ビブリオ感染症:18例が報告されたが、それらはミシシッピ州の住民8例(フロリダ州に移動1例)、ルイジアナ州10例(テキサス州に移動2例、アーカンソー州に移動2例、アリゾナ州に移動1例)であった。17例で病原菌が分離同定され、14例(82%)はVibrio vulnificus 、3例(18%)はV. parahaemolyticus であった。5例が死亡したが、うち3例はV. vulnificus 、2例はV. parahaemolyticus 感染であった。年齢は31〜89歳で、15例は男性であった。ほとんどの症例は入院し、入院日は8月29日〜9月5日の間であった。重症ビブリオ感染症のリスク因子が認められたのは、18例のうち13例(心疾患7例、糖尿病4例、腎疾患3例、アルコール中毒3例、肝疾患2例、消化性潰瘍1例、免疫不全1例、悪性腫瘍1例)であった。
非創傷関連ビブリオ感染症:4例が報告されたが、情報が得られている胃腸炎患者2例では、非毒素産生性コレラ菌が検出された。1例は2カ月の男児で下痢症状を呈し、便からC2群のサルモネラと非O1 & O139型コレラ菌が検出された。他の1例は成人で、便から非O1 & O139型コレラ菌が検出された。死亡例はなかった。
(CDC, MMWR, 54, No.37, 928-931, 2005)