埼玉県内の犬の糞便から検出されたエキノコックス(多包条虫)の虫卵

(Vol.26 p 307-308)

今般、埼玉県内で捕獲された犬の糞便から、エキノコックス(多包条虫 Echinococcus multilocularis )の虫卵が検出されたので、その概要について報告する。 衛生研究所および動物指導センターでは、共同研究として1999年5月から犬および猫における寄生虫類とリケッチア等の保有状況に関する調査を開始し、「埼玉県における動物由来感染症に関する実態調査」を実施している。糞便検査は2005年8月末までに、犬は550検体、猫は747検体について実施した。

動物指導センターで採材された糞便は、その当日または翌日に衛研へ搬入し、できるだけ速やかに検査を実施している。すべての検体において薄層直接塗抹法、ホルマリン・エーテル(酢酸エチル)法、ショ糖遠心浮遊法を併用し、検出された原虫類の一部に関しては、それを同定するために各種染色法や遺伝子解析を実施している。

2005年6月3日、県北で捕獲された雌犬(犬種不明)の糞便からテニア科の虫卵が検出された。犬から検出し得るテニア科の条虫には、豆状条虫(Taenia pisiformis )、胞状条虫(T. hydatigena )、多包条虫(Echinococcus multilocularis )、単包条虫(E. granulosus )などがあるが、いずれの虫卵も形態は類似し、光学顕微鏡下での鑑別は困難である。そこで、得られた虫卵から抽出した遺伝子をPCR法で増幅し、その産物(約250bp)についてダイレクトシ−クエンスを行ったところ、塩基配列は既報の多包条虫(北海道由来)のものとすべて一致した。

感染症法の改正以降、国内では北海道以外の都府県からエキノコックスの虫卵が検出された初めての事例であることから、検査結果が得られた8月30日以後、直ちに関係機関による対応を開始した。

保健所などにおける住民対応を円滑に進めるために「エキノコックス症について」および「埼玉県におけるエキノコックス症について Q&A」を作成し、生活衛生課、衛生研究所、動物指導センターのホームページに掲載した。

また、獣医師会、医師会などへの情報提供、そして保健所担当者に対する「エキノコックス症とその対策」、「県民相談に関わるQ&A」等の研修会を開催するなど、県民への十分な情報提供を行うための方策を重ねた上で、9月8日にプレスリリースを行った。

今後の対応については、飼い主、動物取扱業者に対して、北海道からの犬の持ち込みについて注意を呼びかけるとともに、飼育放棄犬で北海道との関連が確認された犬の糞便検査を実施する。また、エキノコックスが埼玉県に定着しているとは考えにくいが、今回の事例は捕獲された犬から虫卵が検出されたことから、中間宿主となる野鼠を捕獲し、エキノコックスの感染状況を調査する。

近年、エキノコックスに関しては「厚生労働省新興・再興感染症事業」(主任研究者・神谷正男)などによる研究成果が公表され、「犬のエキノコックス症対応ガイドライン 2004−人のエキノコックス症対策のために−」が作成されるなど、その対策の重要性が再認識されている。

埼玉県では今後も動物由来感染症対策として、エキノコックス等の寄生虫に関する実態調査を継続する予定である。

埼玉県衛生研究所 山本徳栄 近 真理奈 山口正則 丹野瑳喜子
埼玉県動物指導センター 小山雅也 前野直弘 東 久 水澤 馨 木村 弘
埼玉県保健医療部感染症対策室、生活衛生課
国立感染症研究所・寄生動物部第二室 森嶋康之 川中正憲

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