2005年第26週から県北部の一地域(山間部)で発疹症の流行があり、患者検体よりA群コクサッキーウイルス9型(CA9)が分離された。同地域では第28週〜35週にかけて無菌性髄膜炎が急増し、ここで検出された病原体もCA9であった。最初の流行は1つの保育園から始まったと考えられるが、小学生にまで範囲が広がり、0〜11歳まで感染が確認された。第26〜35週の間に同地域の定点観測病院から採取してHEAJ細胞株(ヒト胎児由来)によるウイルス分離と中和試験を行った検体は、患者咽頭ぬぐい液24検体、糞便41検体で、全部で26株のCA9が分離された。臨床診断別では無菌性髄膜炎と診断された検体からの分離率が最も高く、16検体から12株が分離された。他の疾患では上気道炎が6検体中4株(以下4/6と表記)、発疹症が4/7、ヘルパンギーナが2/5、感染性胃腸炎が4/24であった。この成績からCA9が様々な疾患を引き起こしていることがわかる。また、感染症発生動向調査の同地域における無菌性髄膜炎の患者報告数とCA9の分離株数を比較すると、両者は図のように重なっている。同地域の定点数は1であることから定点当たりの報告数はそのまま患者数となるが、無菌性髄膜炎以外の患者からもCA9が分離されているため、図では患者数より分離株数の方が多い週もある。CA9以外ではCA6が7株(第26週1株、第28週2株、第31週2株、第32週1株、第34週1株)分離されたが、これらは今シーズンに全県的に流行している病原体である。
当所では一本鎖高次構造多型解析(SSCP解析)を用いることでエンテロウイルス全般の同定作業の効率化を図っているが、今回のケースでは26株のCA9は3種類のSSCPパターンに分けられた。これは代表株3株を同定すれば26株を同定したのと同じ効果が見込めるため、同定効率は26/3で8.7倍になるものと計算できる。SSCPパターンの内訳を見ると、26株中24株までが同一パターンであったため、実質的には20倍以上の効率化に相当している。
今回のケースは山間部の1地域における局地的な流行と考えられるが、その後も遷延しており、9月中旬からは隣接する定点観測地域の検体からもCA9が分離されるようになったため、動向を注視しているところである。
秋田県衛生科学研究所
斎藤博之 石塚志津子 佐藤寛子 原田誠三郎 八幡裕一郎 佐藤智子
笹嶋 肇 鈴木紀行
北秋中央病院・小児科 野口博生