2005年9月におけるAH3型インフルエンザウイルスの分離−三重県

(Vol.26 p 303-304)

2005年9月9日と12日に咳、発熱等の呼吸器症状を呈し鈴鹿保健所管内の医院を受診した中学校女子生徒2名の咽頭ぬぐい液からAH3型インフルエンザウイルスを分離したので報告する。

1.患者の概要

三重県鈴鹿市在住の患者1(13歳、女子中学生)は9月8日から39.4℃の発熱を伴う上気道炎、関節痛を発症したため、9月9日同市内の医院を受診した。また患者2(14歳、女子中学生)も9月10日39.2℃の発熱を伴う上気道炎を発現し同医院を受診した(表1)。医院では咽頭ぬぐい液を採取し、インフルエンザ迅速診断キットを用いて検査したところ、A型インフルエンザ陽性となった。2人の患者は同一中学校の2年生である。この2人の属するクラスおよび学校では同一所見を呈した患者の発生は明確ではない。

2.患者からのウイルス検索

検体からRNAを抽出し、AH1、AH3、AH5に特異的なプライマーを用いてRT-PCRを実施したところ、AH3プライマーで特異的なPCR産物を確認した。さらに同一検体をMDCK細胞に接種したところ、初代で両検体ともCPEを認めた。この培養上清について0.5%ニワトリ血球を用いて凝集活性を測定したところ凝集が認められなかったが、0.75%モルモット血球では4HAの凝集が認められた。さらにMDCK細胞で継代したところ、2代目で患者1は64HA、患者2は128HAが0.75%モルモット血球でそれぞれ確認された。そこで国立感染症研究所から配布されたインフルエンザ検査キットを用いてHIテストを実施した。

その結果、患者1と2から分離されたウイルスは抗A/Moscow/13/98(ホモ価 1,280)、抗A/New Caledonia/20/99(同 320)に対してはHI価10未満であったが、抗A/Panama/2007/99(同 1,280)はHI価10、抗A/Kumamoto(熊本)/102/2002 (同 640)はHI価 320、抗A/Wyoming/03/2003(同 1,280)に対してはHI価 1,280であった。参考までに実施した抗B/Brisbane/32/2002(同 640)、抗B/Johannesburg/5/99(同 1,280)はすべて10未満であった(表2)。さらに培養上清からRNAを抽出して上記と同様のプライマーとNA亜型プライマー(NA1とNA2)を用いてRT-PCRを実施したところ、AH3とNA2に特異的なPCR産物を確認した。以上の結果から、今回分離されたウイルスはA/H3N2型インフルエンザウイルスと同定した。分離したウイルスの抗原性はA/Wyoming/03/2003(H3N2)と類似と考えられる。

3.疫学的考察

疫学情報としては、患者1と2は、本人・家族・親戚等に渡航歴はなく、昨シーズンのインフルエンザワクチン接種歴もない(表1)。同一中学校の生徒であったが、クラスおよびクラブ活動は異なり感染ルートは明らかでない。その後、この中学および同地域で流行が拡大しているという情報は得られていない。

夏季に沖縄県と奈良県でAH3型インフルエンザの流行が報告されていることからも(IASR 26: 243-244 & 244-245, 2005参照)、インフルエンザ疾患の動向把握および新型インフルエンザに備えるべく、冬季だけではなく夏季を含めた通年におけるインフルエンザの動向について積極的調査と監視は必要と思われる。また、今後2005/06シーズンの流行ピーク時に分離されるAH3型と今回分離されたウイルスの抗原性の相同に興味がもたれる。

三重県科学技術振興センター・保健環境研究部
矢野拓弥 中野陽子 山内昭則 杉山 明 中山 治
駒田医院 駒田幹彦

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