非流行期におけるノロウイルス集団感染事例の特徴−堺市

(Vol.26 p 305-306)

ノロウイルス(NV)による感染性胃腸炎は冬季に流行し、集団感染事例も冬を中心にして発生している場合が大多数である。しかし、非流行期である7、8月にも少なからず流行事例が報告されている。堺市内においても7、8月にNVの集団感染事例が2事例発生したので、その特徴について報告する。

事例1:7月15日、市内の介護老人福祉施設(入所者 120名、職員 100名)で、入所者1名が嘔吐症状を呈し、翌日には職員2名が嘔吐、下痢を呈した。その後、発症者は増加し、17日〜23日にかけて入所者20名、職員14名が発症し、有症者は入所者21名、職員16名、合計37名となった(図1)。入所者14名、職員2名からNV genogroup II(GII)が検出され、遺伝子解析(capsid領域約280b)を行った4名(入所者2名、職員2名)から得られたNVの塩基配列は一致し、遺伝子型はGII.1(U07611 Hawaii71US type)に分類された。

この施設の食事は併設施設内の調理場で調製したものを配食しており、両施設とも同じメニューで職員にも提供されていた。併設施設での発症者がみられないこと、給食を喫食していない職員も発症していること、患者の発生状況から、今回の事例は給食による食中毒ではなく、人→人感染によるNV集団感染事例と考えられた。

事例2:市内の保育園(園児 146名、職員35名)において8月2日より嘔吐、下痢などの症状を呈する園児が複数名発生した。この保育園には0歳児〜5歳児までのクラスがあり、8月12日までにすべての年齢層で有症者の発生がみられ、有症園児は合計24名、職員3名となった(図2)。有症園児6名、職員2名のうち、園児4名、職員1名よりNV GIIを検出した。3名から得られたNVの塩基配列は一致し、遺伝子型はGII.6(AB039776 SaitamaU397JP type)に分類された。この保育園では、園児、職員とも同じ給食を食べていたが、患者の発生状況等から人→人感染によるNV集団感染事例と考えられた。

ウイルス遺伝子学的には、事例1から検出されたGII.1 type、事例2のGII.6 typeは、2004/05シーズンの流行と考えられる遺伝子型(GII.4)と異なっていた。今年5月にも堺市内の保育園でGI.4、GII.6 typeのNV混合集団感染事例(IASR 26: 179, 2005参照)が発生しており、複数の遺伝子型のNVが流行していることが推測された。

今回の両事例とも患者発生状況に明瞭なピークは見られず、特に事例2では少人数の患者発生がダラダラと続いていた。両事例とも比較的軽症な患者が多く、ほとんどが嘔吐あるいは下痢が一回程度であり、また、有症期間も短いという印象が見受けられた。今回のように、夏季に胃腸炎症状が出現しても「暑さあたり」や「夏あたり」などと捉えられている場合が多く、このような場合NV感染と診断することは臨床的に難しく、また、発見が遅れることもあり得る。非流行期の夏場におけるNV感染の特徴と言えよう。

昨年から顕著になりつつある非流行期におけるNVの集団感染事例の発生は、NVの流行形態に変化をおこしてきていることは事実である。今後、非流行期であっても、NV感染・集団発生への注意を喚起するとともに、ウイルス遺伝子学的な解析がますます重要で、これらがNV感染予防に大きく貢献できると考えられる。

堺市衛生研究所
三好龍也 内野清子 松尾光子 池田芳春 吉田永祥 田中智之
堺市保健所・医療対策課 柴田仙子 藤井史敏

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