タイより帰国した邦人からインフルエンザウイルスAH3型が検出された2例−神戸市

(Vol.26 p 303-303)

当所で開発したRT-LAMP法を用いて、AH3型を迅速に診断できたので報告する。プライマーは栄研化学のソフトであるLAMP primer designを用いてAH1型、AH3型のHA regionより作製した。このプライマーと栄研化学のRNA増幅試薬キットを用いてRT-LAMP法を行った。検体からの検出率(sensitivity)は迅速診断キットを上回っており、亜型間のspecificityにも問題はなかった(第79回日本感染症学会報告済、現在論文投稿中)。

症例1:30歳男性、タイ在住、貿易関係の仕事に従事しており、トリとの接触歴はない。2005年8月5日(金)に一時帰国し、その夜より発熱。6日(土)には38.5℃の発熱があり、咽頭痛、筋肉痛を出現したため、7日(日)にA病院の休日外来を受診した。迅速診断キットにてA型インフルエンザと判明、オセルタミビルを処方し、帰宅させた。8日(月)にA病院より神戸市保健所に届出があり、迅速診断のための検体が保存されていたことより、保健所の指示のもと、当研究所に検体が搬入された(午後2時)。

直ちに、P3レベルの実験室で、QIAmp Viral RNA Mini Kit(QIAGEN)を用いて、RNAを抽出し、RT-LAMP法にてAH1およびAH3の検出を行った。同時に、陽性コントロール[AH1、AH3が分離された咽頭ぬぐい液(−70℃保存)]と、陰性コントロール(HANKS液)からのRNA抽出を行い、RT-LAMP法を実施した。結果、AH1検出法ではAH1陽性コントロールが、AH3検出法では当該検体とAH3陽性コントロールが陽性となったため、保健所にAH3型の旨の報告を行った(午後4時半)。同時にMDCK細胞で培養を開始し、2日目にウイルスが分離された。HI試験により、A/Wyoming/3/2003と抗原性類似のウイルスであることが判明した。

症例2:31歳男性、2005年9月22日〜26日までタイへ旅行し、バンコクに滞在した。トリとの接触歴はない。9月27日(火)より発熱、9月29日(木)午後にB病院救急外来を受診した。高熱、悪寒、戦慄、咽頭発赤あり。WBC 6,100/mm3 、CRP 7.3mg/dl。溶連菌感染症、インフルエンザなどが疑われた。迅速診断キットにてA型インフルエンザと判明したため、B病院より直接、当研究所に連絡があり、検体が当研究所に搬入された。9月30日(金)朝よりRNA抽出し、RT-LAMP法を施行し、AH3型と判明したので、B病院に報告した(午前11時)。同時にMDCK細胞で培養を開始し、3日目にウイルスが分離された。HI試験により、A/Wyoming/3/2003と抗原性類似のウイルスであることが判明した。

RT-LAMP法導入により、検体搬入から結果判定までは2〜3時間で行うことが可能となったのでここに報告する。

神戸市環境保健研究所 中川直子 伊藤正寛

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