はじめに
2002年以降、欧米ではノロウイルス(NV)のGII/4 のLordsdale/93/UK型[X86557]のポリメラーゼ領域が変異した株(2002型)による急性胃腸炎の集団発生が増加し、病原性および感染力が強いとされた。その後2004年には2002型のポリメラーゼ領域(P領域)がさらに変異した2004型による集団発生も報告された1)。この変異型は、ORF2のキャプシド領域(C領域)がGII/4で、ORF1のP領域に変異が認められる株である(図1)。
昨年末〜今年の初めにかけて高齢者福祉施設での急性胃腸炎の集団発生の多くがGII/4のLordsdale型に起因していたことから、GII/4変異型の国内での検出状況を把握するため、全国各地で発生した高齢者施設および高齢者以外の集団発生事例、ならびに小児散発胃腸炎事例について調査したので報告する。
材料と方法
2001年2月〜2005年3月の間に発生したNVによる事例でC領域がGII/4のLordsdale型と決定された高齢者施設での集団発生事例49件、高齢者施設以外の集団発生事例40件(飲食店14件、旅館8件、病院8件、養護施設4件、保育園3件、中学・高校3件)、小児の急性胃腸炎の散発事例22件、計111件から採取した患者の糞便あるいは吐物について、プライマーMR3/P3を用いてP領域のRT-PCRを行い、遺伝子配列を決定した。
成 績
P領域の調査を実施したところ、2002年より前に流行した99/00型、2002型、2004型、およびP領域がSaitamaU1[AB039775] に近縁なSaitamaU1型の4つの変異型が検出された。なおSaitamaU1株はP領域が2004型で、C領域がGII/12型のリコンビナント株である[ちなみにHokkaido/231 [AB240173](本号9ページ参照)はP領域が2004型で、C領域がGII/4である]。
2002型が最初に検出されたのは2002年12月であり、その後2003/04〜2004/05シーズンにも数件検出された。一方2004型は、2004年1月に初めて高校での食中毒事件で検出された。
2003/04と2004/05シーズンの違いをみると、2003/04シーズンはSaitamaU1型が20件(77%)と最も多く、2004型は2件(8%)であった。2004/05シーズンでは、SaitamaU1/pol 型および2004型がほぼ半々で、2004型が著しく増加した(図2、図3)。
高齢者施設における2003/04と2004/05シーズンの違いは、2003/04シーズンは5事例すべてがSaitama U1型であったのに対し、2004/05シーズンは2004型とSaitamaU1型がほぼ同数であった。高齢者施設以外の集団発生では2003/04シーズンはSaitamaU1型が5事例で最も多く、次いで2002型の3事例で、2004型は1事例であったが、2004/05シーズンは2004型が10事例(34%)と増加し、2002型は1事例のみであった。小児散発事例においては2003/04シーズンはほとんどがSaitamaU1型で、2004/05シーズンは6事例(75%)が2004型であった。2004/05シーズンには高齢者施設と小児散発事例において2004型が多く認められた(図4)。
考察およびまとめ
ヨーロッパ等で流行した2002型および2004型は国内においても、欧米とほぼ同時期に検出されたことが確認され、特に2004/05シーズンは、2004型が高齢者施設における集団発生および小児散発事例の半数以上を占めていた。今後も新たなNV変異型が出現する可能性が考えられ、引き続き海外でのNVの発生状況に関しての情報収集と併せ、国内で検出されたNVの遺伝子型の解析を早急に行い、対応していく必要があると考える。特に高齢者および乳幼児では抵抗力が弱いことから感染予防に注意が必要と思われる。
文 献
1) Eurosurveillance Weekly 2004(52): 23/12/2004
[http://www.eurosurveillance.org/ew/2004/041223.asp]
国立感染症研究所 愛木智香子 秋山美穂 岡部信彦 西尾 治
静岡県環境衛生科学研究所 杉枝正明
愛媛県立衛生環境研究所 山下育孝
広島県保健環境センター 福田伸治
北海道立衛生研究所 吉澄志磨
山口県環境保健研究センター 西田知子
千葉市環境保健研究所 田中俊光
宮崎県衛生環境研究所 岩切 章
新潟県保健環境科学研究所 田村 勉