神奈川県内でのつつが虫病患者の発生は1988年までは毎年十数名であったが、1989年に81名と急増し、1990年には112名の患者発生がみられた。その後減少傾向を示し、1996、1997年には9名にまで減少した。しかし1998年から増加傾向に転じ、2000年には42名の患者発生となった。その後再び減少傾向を示し、2001年7名、2002年4名、2003年10名となったが、2004年には18名、2005年には19名とやや増加傾向が見られた。
2001〜2005年の5年間につつが虫病を疑われた患者87名(2001年13名、2002年7名、2003年17名、2004年23名、2005年27名)について、間接蛍光抗体法(IF)による血清抗体検出およびPCRによるOrientia tsutsugamushi DNA検出により確定診断を行った。その結果、58名(2001年7名、2002年4名、2003年10名、2004年18名、2005年19名)がつつが虫病と診断され(表1)、2001年と2003年の患者よりL929細胞を用いて5株のO. tsutsugamushi 分離株が得られた。この5株のうち4株は県内で感染したと思われる患者からの分離株で、1株は韓国で感染したと思われる患者からの分離株であった。これら分離株を型別PCRおよびモノクローナル抗体を用いて同定した結果、県内の分離株はKarp株1株、Kawasaki株2株、Kuroki株1株であり、韓国の分離株はKuroki株であった。さらにKarp株について56kDaタンパク質をコードする遺伝子の配列を決定したところ、JP-2型に分類されている株と同様であった。
つつが虫病患者のうち、PCRによりO. tsutsugamushi DNAの検出が可能であった検体については型別PCRによる感染株の決定をし、O. tsutsugamushi DNAが検出されなかった検体ではIF抗体価から感染株を推定して、県内および隣接している静岡県小山町付近で発生しているつつが虫病の感染株について検討を行った。この結果、県内および静岡県小山町付近で感染が確認された株は、Karp、KawasakiおよびKurokiの3株であり、それぞれ4名(7.4%)、37名(69%)および13名(24%)の割合であり、その大部分がKawasaki株による感染であることが判明した。5年間でKawasaki株は毎年ほぼ同じ割合であり、Karp株は毎年1例程度なのに対し、Kuroki株は2004年、2005年と多少の増加傾向が見られた(表2)。
県内では毎年足柄上地区で多くのつつが虫病が発生しており、2001年からの5年間も感染推定場所はそのほとんどが山北町、南足柄市の2つの地域であった。また少数であるが、周辺の小田原市や秦野市での患者発生も見られた(図A)。また感染推定地域と感染株を調べてみると、すべての感染推定地域で複数の株が存在していることから、県内の感染推定地域では3種類の株がそれぞれの地域で存在していることが明らかとなった(図B)。患者の発生時期も例年同様10〜12月で、特に11月に集中していることが多かった。しかし2005年は3月に1名の患者発生が見られた。このことから媒介ベクターの詳細な検索が必要であると考えられた。
神奈川県でのつつが虫病患者発生数をみると、1996年頃から10名前後の患者発生が3年間続き、2年間ほど増加傾向を示してまた減少するというパターンがみられている。今後もこの傾向で推移するのか注目していきたい。またこのパターンに影響している要因がリケッチア、媒介ベクター、リザーバー、気象条件などのどれと密接に関わっているか調べていく必要があると思われた。
つつが虫病は適切な薬剤投与により完治する病気であるため、早期に確定診断することが重要である。今後もIFとPCRを併用し、つつが虫病の迅速診断をより確実にする必要がある。
神奈川県衛生研究所
片山 丘 原 みゆき 古屋由美子 新川隆康
神奈川県保健福祉部健康増進課 小笠原弘和