鹿児島県のつつが虫病と日本紅斑熱疫学調査

(Vol.27 p 31-33:2006年2月号)

鹿児島県のつつが虫病と日本紅斑熱患者の発生状況を図1に示した。2004年のつつが虫病患者は54人であり、全国(296人)の約22%を占め、全国最多の報告数であったが、全国および当県においても減少傾向にある。また、2004年の鹿児島県の日本紅斑熱患者は11人で、全国(67人)の約16%を占め、前年の14人からは減少したものの、全国では増加傾向にある。

今回、2004年に当センターで検査を実施し、つつが虫病陽性であった患者48名および2000〜2004年に検査を実施した日本紅斑熱陽性患者48名について疫学調査を実施したので報告する。

2000〜2004年の月別患者報告数については、図2に示すように、つつが虫病は秋〜春にかけての発生が多いとされ、10〜4月に発生している。また、日本紅斑熱は、春〜秋にかけての発生とされているが、4〜12月まで発生している。

男女別・年齢別発生状況は、つつが虫病患者は、60代(19%)、70代(17%)が多く、70代(男:女比4:1)では男性の割合が一番高く、日本紅斑熱患者は、70代(21%)、60代(17%)、50代(13%)が多く、50代(男:女比1:6)など女性の割合が高い(図3図4)。

つつが虫病患者の感染推定地域の地形は、山地(54%)に続いて平地(31%)での感染が多く、作業内容は、農作業(46%)が多かった。日本紅斑熱患者においても、山地(58%)に続いて平地(31%)での感染が多く、作業内容は、農作業(56%)が半数以上となっている。

患者発生地域については、つつが虫病患者は県内全域での発生があるのに対して、日本紅斑熱患者は大隅半島での発生がほとんどであり、大隅半島に特有かと考えられていたが、2003年に薩摩半島で初の感染事例(山地での農作業:2人)が報告されている。1990年に徳之島(南西諸島)で日本紅斑熱患者が確認され、2005年6月にも患者1人が発生している。

臨床症状については、両疾患ともにほとんどの患者が、発熱・発疹・刺し口の3徴候を呈している。その他の症状としては、全身倦怠、頭痛、筋肉痛があり、中には、つつが虫病患者では咳(2人)、日本紅斑熱患者では嘔吐(3人)を訴えている事例もあった。

検査所見については、つつが虫病患者の白血球数は最低値3,600/µl、最高値16,570/µl、平均値6,656/µl、日本紅斑熱患者の白血球数は最低値2,910/µl、最高値13,400/µl、平均値6,927/µlであった。CRP上昇のあった者は、つつが虫病患者では26人(54%)であったのに対して、日本紅斑熱患者では34人(71%)であった。肝機能は、つつが虫病患者23人(48%)、日本紅斑熱患者31人(65%)が異常値を示した。日本紅斑熱患者の中にはDIC(4人)を引き起こした事例もあった。

鹿児島県においては、つつが虫病および日本紅斑熱患者の発生が多く報告されている。その要因としては、病原体を保有するマダニ類によって小動物やヒトに感染する機会が多く、医療機関からの依頼検査が多いことも考えられる。

以前からつつが虫病は、山地の森林作業・農作業での感染機会が多いとされていたが、つつが虫病・日本紅斑熱ともに平地での農作業、散歩など、自宅近辺でも感染機会があると考えられることから、さらに住民への予防啓発が必要である。

今後、患者発生に伴う感染地域での患者の疫学調査および媒介動物からのリケッチア分離を継続的に行い、ヒトへの感染の確定と感染時期を分析することによって、感染予防ができるのではないかと考える。

また、県内の患者から分離したリケッチアを抗原としたIF検査などで、ペア血清では判定できなかった不明熱群の解明や早期診断のためにPCR検査(検体の採取時期・保存・搬入の問題点、検体の処理数、煩雑さなど課題は多い)等を行うことも必要であると考える。

鹿児島県環境保健センター
御供田睦代 石谷完二 吉國謙一郎 上野伸広 新川奈緒美 藏元 強 宮田義彦
鹿児島県出水保健所 本田俊郎

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