日本紅斑熱について
島根県における日本紅斑熱は、1987年に第1例目を確認して以降、2005年末現在で80例の患者を確認している。1999年に感染症法が施行され、その翌年から毎年10例前後の患者報告がある(図1)。日本海側地域での患者発生は、今まで島根県のみで認められていたが、2004年に福井県、2005年には福岡県北部日本海側地域でも患者報告がみられるようになった。島根県における推定感染地は、80例中77例が島根半島(東西約60km、南北4〜10km)の西端に位置する弥山山地(東西約10km部分)内に限局していたが、2003年と2005年に弥山山地東端より東方約10kmの島根半島山間地で感染した患者報告が各1例ずつあった。さらに、2005年には島根半島東端の松江市美保関町の山林で感染した患者1例が報告されたことにより、島根半島全域で患者が発生する可能性が示された。患者発生時期はベクターであるマダニ類が活動する3〜11月にかけて認められ、特に春5月と夏から秋の8〜10月に集中している(図2)。
1997年に報告された患者1例と2000年に報告された患者2例の急性期血液からVero細胞を用いてリケッチアを分離したところ、17kDa蛋白をコードするリケッチア属共通遺伝子を検出するプライマーR1/2増幅領域の塩基配列が3株ともRickettsia japonica YH株と一致した。同遺伝子は患者以外に島根半島の山林で捕獲したアカネズミやマダニ類からも多数検出されており、この地域におけるR. japonica の分布を確認している。特に、マダニ類ではフタトゲチマダニとヤマトマダニからのR. japonica 特異遺伝子の検出率(各々3.3%、1.8%)が高かった。
つつが虫病について
島根県におけるつつが虫病は、1985年以降に82例が確認されている。1998〜2001年にかけて、毎年10例前後の患者報告があったが、近年は2〜4例にとどまっている(図1)。また、つつが虫病による死亡例は1993年、2000年、2005年に各1例ずつ報告されている。患者の多くは島根県東部・斐伊川水系の雲南地域で57例の発生が認められ、次いで中部・江の川水系の大田邑智地域で18例が発生している。また、日本紅斑熱患者の多発する島根半島西部地域では6例、さらに2003年に隠岐諸島(中の島)で1例が報告された。患者の発生は秋から初冬の11、12月および春の3〜5月に多く見られる秋・春型である(図2)。
2000年に報告された患者1例の急性期血液からL929細胞を用いて分離したOrientia tsutsugamushi および2001〜2004年に発症した患者5例の急性期血液から検出したO. tsutsugamushi の56kDa蛋白をコードする遺伝子について、プライマー10/11増幅領域の塩基配列は2例がJG型(血清型:Gilliam)、4例がJP-2型(血清型:Karp)に分類された。また、死亡例のうち、1993年の1例は急性期血液からO. tsutsugamushi DNAが検出され、血清型別(Karp、Gilliam、Kato、Kuroki、Kawasaki)のPCRによりKarp型であった。2005年の1例は、血清の間接蛍光抗体法により、IgG抗体・IgM抗体ともにKarp株に対し他のGilliam、Kato、Kuroki、Kawasaki各株よりも高くなり、Karp型の感染と思われた。
一方、島根県東・中部の患者発生地域で捕獲したアカネズミからもO. tsutsugamushi Karp型(JP-2型)の56kDa蛋白遺伝子を検出している。さらに、島根県隠岐諸島および東・中部地域でのフトゲツツガムシの優勢な棲息相を確認している。しかし、Kawasaki型(Kuroki型も?)を媒介するタテツツガムシは確認されていない。
よって、島根県におけるつつが虫病は、フトゲツツガムシが媒介するO. tsutsugamushi ・Karp、Gilliamの両型が主であり、新潟県・長野県・福島県以北の地域と同じ発生状況と思われる。
島根県保健環境科学研究所 田原研司 保科 健
前島根県保健環境科学研究所 板垣朝夫
大原綜合病院附属大原研究所 藤田博己
愛知医科大学 角坂照貴
福井大学医学部 矢野泰弘 高田伸弘