日本紅斑熱の治療
−重症例、死亡例の検討と併用療法の有用性

(Vol.27 p 37-38:2006年2月号)

日本紅斑熱はつつが虫病に比して重症化しやすく、早期の有効治療が必要である。日本紅斑熱の治療は、「テトラサイクリンを第一選択薬とし、重症例ではニューキノロン薬との併用療法を行う」とされている1)。しかし、近年の重症例、死亡例の蓄積とともに治療法の再検討を行った結果、日本紅斑熱と診断した場合「テトラサイクリンを第一選択薬とするが、一日の最高体温39℃以上の症例では、直ちにテトラサイクリン薬とニューキノロン薬による併用療法を行う」とすることを提唱したい2)。

重症例の治験:66歳農家主婦。既往歴、家族歴に特記すべきことなし。

現病歴:2003年6月10日頃に農作業。6月14日38℃以上の発熱があり16日近医を受診、点滴を受けたが改善せず17日救急病院に入院した。同院入院時より40〜41℃の高熱が持続。不明熱との診断で抗菌薬の投与を開始。6月20日リケッチア症疑いにてMINO投与開始するも高熱、意識障害、痙攣等全身状態の急激な悪化をみたため、6月21日当院へ救急搬送された。

入院時所見:意識レベルJCS30 、体温39.8℃、全身に紅斑を認め、下腿部に複数のマダニ刺し口を認めた(図1)。

入院時検査:WBC 7,190、CRP 24.8、PLT 6.1 、FDP 76.0、AST 67、ALT 52であった。臨床所見より日本紅斑熱と診断し、直ちにMINO(200mg/d,iv)およびCPFX(300mg/d,os)の投与およびDICの治療を開始した。

臨床経過図2):入院後39〜40℃の発熱が持続したが併用療法開始7日目から下熱傾向、10日目で解熱した。

血清診断:IP反応で入院時IgM、IgGともに陰性であったが、第9病日IgM 1,280倍となり確定診断とした。

本症例の考案:日本紅斑熱では日一日と急激な病状の悪化を来す。従来、併用療法はMINOの作用にオンする形でニューキノロンが有効と考えられていた3)。しかし、本症例では入院時から極めて重症であったので直ちに併用療法を行った。その結果、同時投与でも十分効果があることが判明した。また、臨床的に診断可能であったが、血清学的な確定診断は9日後まで待たねばならなかった。

日本紅斑熱の集団感染例

2004年5月に、西日本にある無人島を踏査した7名グループのうち3名が2〜8日後に相次いで発熱や発疹を伴う症状を訴えて医療機関を受診するという事例が発生した。1例は軽症で外来治療のみで回復、2例は重症化し、うち1例は死亡。1例は回復したもののDIC、多臓器不全のため約2カ月間の入院治療を要した。2症例は臨床所見に加えて血清学的に日本紅斑熱の確定診断が得られた。死亡例については血清学的確定診断には至らなかったが、高熱、紅斑および刺し口の状態から臨床的に日本紅斑熱と診断された。回復した1例は併用療法が行われた。

これら症例を契機として、早期診断法の研究、治療法の再構築、住民への啓発を行った。早期診断法については、その後に発生した日本紅斑熱症例について、刺し口、紅斑部の皮膚生検を行い酵素抗体法にて早期診断を試み、入院日を含む検体採取日に全例陽性所見を得た。今後有用な早期診断の方法となりうる4,5)。

死亡例の検討

2005年末までに4例の死亡例が報告されている(personal communicationを含む)。

発症後治療開始までの期間は5〜7日間、入院時血小板数は0.9〜3.8×104。入院後5時間〜第4病日までに感染性ショック状態、腎不全、DIC、多臓器不全で不幸な転帰をとった。

治療は4症例ともにミノサイクリンが投与されている。1例のみ約1日前にCPFXが投与されたが、早期から併用療法を行った症例は報告されていない。

重症例の治療法として、併用療法の有用性を強調したい。

まとめ

日本紅斑熱は早期診断と適切な治療がなされれば治癒しうる疾患である。近年、重症例、死亡例の報告が増加しており、地域住民、獣医師、医師等への啓発が重要である。

文 献
1)馬原文彦,日本医師会雑誌,感染症の診断・治療ガイドライン2004, 132: 146-147, 2004
2)馬原文彦,第61回日本寄生虫学会西日本支部大会・第60回日本衛生動物学会西日本支部大会,臨床検討会教育講演,2005
3)Mahara F, Rickettsiae and Rickettsial Diseases, Elsevier Paris, 233-239, 1999
4)馬原文彦, 他,感染症学会雑誌 79(臨増): 254, 2005
5)Tsutsumi Y & Mahara F, In abstract of The IVth International Conference on Rickettsiae and Rickettsial Diseases, O-35, Logrono, Spain, 2005

馬原医院 馬原文彦

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