2006年3月大阪府内の小学校においてC群ロタウイルスによる集団胃腸炎が3例発生したので報告する。検出には電子顕微鏡またはRT-PCRを用い、プライマーはVP7遺伝子を増幅するG8S/G8ASプライマーセットを使用した[葛谷ら、感染症学雑誌 77(2): 53-59, 2003]。
事例1:3月5日、小学校1年生の1クラスで5名が嘔吐、下痢、発熱等の症状を示し、翌日、他クラスも含め新たに3名が消化器症状を呈した。そこで7日、8日にかけて患者より便を採取し、5検体中4検体からRT-PCRでC群ロタウイルスを検出し、電顕で粒子を確認した。初めに発生のあったクラスでは3月1日に嘔吐、発熱を示した児童が確認された。10日に終息し、1年生15名の発生となった。主な症状の有症率は嘔吐73%、下痢53%、発熱27%であった。
事例2:3月13日、小学校1年生の1クラスで8名が嘔吐、下痢、発熱にて欠席している旨、保健所に届出があった。このクラスの患児より採取された便5検体からC群ロタウイルスをRT-PCRにて検出した。初発と考えられた児童は8日にクラスで嘔吐し、翌日も症状があったが登校しており、集団発生につながったのではないかと思われた。在籍児童数588名のうち他クラスも含め27名が発症した。主な症状の有症率は嘔吐67%、下痢48%、発熱41%であった。
事例3:3月15日、小学校2年生を中心に27名の児童が嘔吐、下痢、発熱等の症状を呈しているとの報告が16日に入り、当日午後調査を開始した。その結果(図1)、15日の時点で1年生11名、2年生28名、3年生3名、4年生1名、5年生2名の発症者を確認した。16日は卒業式のため4〜6年生のみの登校であったが、2年生では引続き17名が発症し、また4年生8名、6年生6名の新規患者が発生した。1、2年生と3年生の2クラスは1階のランチルーム、3年生の1クラスと4〜6年生は2階のランチルーム(2年生の教室前に位置)を利用することになっていた。15日に2年生の教室、および1階のランチルームで、また、2階ランチルーム前で嘔吐が確認された。15日の発症人数から、それ以前に感染が拡まっていたことがわかるが、ロタウイルスの場合もノロウイルスのように吐物による感染拡大を考慮しなければならないのかもしれない。また、発生経過からみると、13日に卒業生を送る会があり、全校生徒が集合していたことも感染が拡大化した一要因と考えられる。最終患者数は在籍者数655名中158名(24%)となった。各学年の児童数は110名前後で、最も患者の多かった2年生では52名(48%)が発症した。搬入された検体は20日に採取された1、2年生患児の便で、9検体中7検体からC群ロタウイルスをRT-PCRにて検出した。患児の有症期間は1〜5日であった。症状の把握ができた144名における主な症状の有症率は嘔吐88%、下痢61%、発熱42%であった。
事例2と3についてRT-PCRの増幅産物のシーケンスを実施し、1,000bpを決定した。事例2、3の一致率は99.7%であり、GeneBank登録番号AB086967と99%の一致率を示した。
大阪府立公衆衛生研究所において2005年4月〜2006年3月にかけて集団発生として対応した事例は98事例あり、そのほとんどがノロウイルスを原因としたが(84事例)、2005年5月の集団発生(IASR 26: 340, 2005)を含めC群ロタウイルスの発生は4事例となった。特に3月の集団胃腸炎の発生は12事例あったが、小学校における発生は5事例あり、うち3事例がC群ロタウイルスを原因とし、残る2事例がノロウイルスを原因とした。本年5月にも小学校においてC群ロタウイルスによる集団胃腸炎が発生しており、3月〜5月にかけて小学校で発生する集団胃腸炎の原因としてC群ロタウイルスは重要である。さらに、著者らが経験したC群ロタウイルスによる集団発生はA群によるものに比べると規模は大きいものの、1クラス内で終息することが多かったが、島根県における発生事例(IASR27: 121-122, 2006)にもあるように、大規模発生につながる危険性がある。日頃の健康管理を把握することで、健康異常に早急に対応し、感染の拡大を抑えることが大事である。
大阪府立公衆衛生研究所感染症部
左近直美 山崎謙治 依田知子 大竹 徹 塚本定三