輸入鶏肉から分離されたSalmonella Enteritidisの薬剤感受性

(Vol.27 p 193-193:2006年8月号)

サルモネラによる食中毒の発生件数は毎年上位を占めており、その原因食品の一つに鶏肉があげられる。当所では、横浜市内に流通する鶏肉の汚染状況を把握するため、1982年から市販国産鶏肉についてサルモネラ等の病原菌の検索を行っている。また、輸入鶏肉からバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が検出されたことから、1999年からはその汚染状況を調査するために市内流通輸入鶏肉についてもVREと合わせてサルモネラを含めた病原菌の検索を実施している。その結果得られた、分離サルモネラ株の血清型等の分布について報告する。

国産鶏肉から分離されたサルモネラ株の血清型に関する経年変化については、以下のような結果になった。1994年以前では分離されたサルモネラ株に占めるSalmonella Sofiaの割合が15〜40%、1990〜1994年ではSalmonella Hadarが15〜20%と多く分離された。Salmonella Infantisは、1992年以前が5〜20%であったのに対し、1995年以降では50%以上を占め、その割合は年々高くなっている。Salmonella Typhimuriumは例年10%前後の割合で推移している。Salmonella Enteritidis(S. E)は1993年に初めて分離され、それ以降1〜30%の割合で分離されている。これに対し輸入鶏肉から分離される株は、毎年S. Eがそのほとんどを占めている。

近年、薬剤耐性サルモネラが問題となっていることから、1999〜2005年までの6年間に検査を行った輸入鶏肉152検体中48検体から分離されたS. E(分離率32%)について、薬剤感受性試験を行い、その薬剤耐性の傾向を調べた。対照として1995〜2003年に国産鶏肉から分離されたS. E 27株についても同様に薬剤耐性の傾向を調べた。

これらの株についてKB法に基づくディスク拡散法でABPC、SM、TC、CPFX、KM、CTX、CP、ST、GM、NA、FOMの11薬剤について薬剤感受性試験を行った。その結果を表1および表2に示した。輸入鶏肉由来の株は供試薬剤すべてに感受性が10株(21%)、1薬剤耐性が22株(46%)、2薬剤耐性が5株(10%)、3薬剤耐性が8株(17%)、4薬剤耐性が3株(6.3%)であった。このうち、29株(60%)がNA耐性であった。国産鶏肉由来の株は供試薬剤すべてに感受性が4株(15%)、1薬剤耐性が18株(67%)、2薬剤耐性が5株(19%)であった。このうち23株(85%)が、SM耐性であった。わが国における臨床分離株に関してはSM単剤耐性もしくは感受性の株が多いといわれている。輸入鶏肉の薬剤感受性パターンの分布は、こうした国内分離株のそれとは明らかに異なっていることが示された。

2004年1月に市内小売店から収去された中国産鶏肉から分離された1株はABPC、CTX、NAに耐性であった。CTXに耐性であったため、Extended-spectrum β-lactamase(ESBL)産生を疑い、Etest ESBLを用いて検査した結果、クラブラン酸によってESBL活性の阻害が認められたため、ESBL産生菌であると判定された。ESBLの型別についてはPCR法で、 bla CTX-M-9グループに特異的なプライマーでバンドが認められた。その増幅産物について塩基配列を決定した結果、この遺伝子はbla CTX-M-14遺伝子と100%同一であった。

S. Eは腸管感染にとどまらず、敗血症などの全身症状を示す例も少なくない。その際、治療にはフルオロキノロン系薬剤が投与されるケースが多いが、上述のようなNAに耐性を示す株はCPFXなどのフルオロキノロン系薬剤のMICが上昇しており、臨床では治療に苦慮する例が報告されている。こうしたケースでは第3世代セファロスポリン系薬剤が用いられるが、今回新たにESBL産生性S. Eも輸入鶏肉から検出された。こうした薬剤耐性を持ったS. Eが輸入鶏肉を通じて国内に広まる恐れがあるということは非常に問題であり、輸入鶏肉由来サルモネラの動向は今後とも注意深く監視していく必要がある。

最後に、ESBLの型別につきまして御指導いただきました国立感染症研究所・細菌第一部の泉谷秀昌先生に深謝いたします。

横浜市衛生研究所
松本裕子 北爪晴恵 山田三紀子 石黒裕紀子 鈴木正樹 武藤哲典 佐々木一也

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