介護老人保健施設で発生したSalmonella Enteritidisの集団感染事例−徳島県

(Vol.27 p 194-195:2006年8月号)

2005年7月、介護老人保健施設にSalmonella Enteritidis (9:g,m:-)(S. E)を原因としたいわゆる人→人伝播による集団感染と思慮される事例が発生したのでその概要を報告する。

第一報は、2005(平成17)年7月12日午後2時頃、当該施設から保健所にかかった次のような電話であった。「発熱(38℃台)、嘔吐および水様性下痢等を訴える者が連日発生。同月9日に3名、10日5名、11日1名の合計9名に及ぶ。同施設の嘱託医によれば症状等から病原体はノロウイルスの疑いがあるとのことである。ついては拡大防止などの対応策について指示を仰ぎたい。」

保健所は、食中毒と感染症の両面から疫学調査を開始した。本事案の初発患者は認知症があり、徘徊、異食傾向に加え、不潔行為が認められること、有症状者3名の血液検査では白血球の増加が認められず(5,800〜8,400/μl)、ウイルス感染による急性胃腸炎が疑われるとの嘱託医の判断に基づき、患者5名の便について当センターでノロウイルスの検索を実施したが検出されなかった。

一方、同月9日に発症した患者の便から民間検査機関がサルモネラ属菌を検出したとの報告を受けたため、当センターでも患者便17検体の細菌学的検査を順次実施した。発症状況をおよび一覧表で示す。

この結果、S. Eが9名から検出され、それらのファージ型はすべて一致した。

感染源および感染経路を特定するため、有症状者と厨房担当職員の検便の他に同月7、8日の食材についてもPCR検査を含めた細菌学的検査を実施したが、いずれもすべて陰性であった。保健所は、各施設の担当者に対し厨房も含めた施設全域、入所者の食事の管理、口腔ケアと手洗い、排泄物の処理の消毒方法について再度徹底するように指導した。施設への訪問指導を8回、施設内の一斉消毒を7回にわたって実施した結果、同月16日以降の発症者は認められず、また同月26日実施した施設のふきとり検査(58カ所)や入所者および職員の健康調査における検便もすべて陰性であった。

まとめ:腹痛、下痢、嘔吐等の消化器症状を伴ういわゆる感染性胃腸炎の病原体としては、多くの細菌、ウイルスおよび寄生虫があるが、ヒトのサルモネラ症では、感染様式のほとんどが食品媒介感染として分類されている。本症は、健康な成人では急性胃腸炎にとどまるが、小児や老齢者では微量で感染する上、症状がより重篤で菌血症等を併発しやすいとされている。

本事案は、認知症の患者が多数入所、健康管理上必要な注意が守られにくい介護老人保健施設という環境下において発生したため、拡大防止のための対応に支障があったものの、保健所の指導に対し、施設側が迅速かつ積極的に対応したため蔓延防止が図れ、早期に流行を終息させることができた。

徳島県保健環境センター 森 敏彦 笹川知位子 澤田千恵子

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