保育所におけるナリジクス酸耐性Salmonella Enteritidis食中毒事例−北九州市

(Vol.27 p 195-196:2006年8月号)

2004(平成16)年9月、市内の保育所において、給食を原因とする、Salmonella Enteritidis(S. E)による食中毒が発生した。その概要を報告する。

発生状況:9月13日、当該保育所の園医から北九州市保健所に、多数の園児が食中毒様の症状を呈しているとの連絡が入り、調査を開始した。

患者は9月7日〜17日にかけて発生し、総患者数は98名、症状は下痢(95名)、発熱(72名)が主であった。患者数の推移を図1に示す。

検査結果:原因食品として保育所の給食が疑われたため、8月31日〜9月10日の給食32検体、給食施設および調理員の手指等のふきとり7検体について検査した。

その結果、9月6日の給食のうち「鶏肉の春雨あえ」からS. Eを検出した。ふきとり検体からはS. Eは検出されなかった。

また、園児便は検査した81検体中65検体、調理員便は3検体中2検体、保育士便は27検体中8検体からS. Eを検出した。

検出されたS. E株のうち、原因食品由来1株、調理員便由来1株、患者便由来6株について、ディスク拡散法により、アンピシリン、セフォタキシム、ゲンタマイシン、カナマイシン、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、シプロフロキサシン、ナリジクス酸、スルファメトキサゾール、クロラムフェニコール、トリメトプリム、ホスホマイシンの12剤に対する感受性試験を行ったところ、すべての株がナリジクス酸に耐性を示した。

ナリジクス酸耐性のサルモネラは、近年検出頻度が増加しており、フルオロキノロン系薬剤に対しても耐性を示すものが出現しているという報告があるため、さらにフルオロキノロン系薬剤であるノルフロキサシン、オフロキサシン、エノキサシンに対する感受性試験を行ったところ、いずれに対しても感受性を示した。

また、これらの菌株について国立感染症研究所・細菌第一部にファージ型別を依頼したところ、すべて1型であった。

さらに、制限酵素Xba IおよびBln Iによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(泳動条件:6.0V/cm、2.2〜54.2sec、19hr)を行った結果、図2に示すように、原因食品由来株、調理員便由来株、患者便由来株はすべて同一のパターンを示した。

以上の細菌検査および疫学調査から、9月6日の給食として提供された「鶏肉の春雨あえ」を原因食品と確定した。

この献立には材料として鶏卵、鶏肉が使用されていたが、ともに調理段階で、回転釜により十分に加熱調理されていることから、加熱不足によるS. Eの生残の可能性は低いと考えられた。一方、鶏肉は包装された細切り肉を回転釜に入れるだけであるのに対し、鶏卵は殻付きのものをボールに割りいれ、攪拌した後に回転釜で加熱していた。以上のことから、鶏卵由来のS. Eが調理段階で調理員の手指あるいは調理器具を汚染し、結果として原因食品を汚染したのではないかと考えられた。しかし、9月6日に使用された鶏卵・鶏肉の残品(ともに未処理のもの)、ふきとり検体からはS. Eが検出されず、汚染の原因は特定できなかった。

北九州市環境科学研究所 徳崎里美 高橋正規
北九州市保健所

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る