健康診断受診者に発生したSalmonella Enteritidisによる集団食中毒事例−宇都宮市

(Vol.27 p 196-197:2006年8月号)

宇都宮市内のクリニックで実施している健康診断の受診者に発生したSalmonella Enteritidis(S. E)による集団食中毒事例について、概要を報告する。

2005(平成17)年7月1日、「6月27日〜29日に同施設で健康診断を受診した複数名が、受診後、下痢等の症状を呈している」旨、宇都宮市保健所に連絡があり、同日調査を開始した。保健所の調査の結果、3日間の受診者数は185名、患者数は64名(発症率34.6%)で、水様性下痢、発熱(37.0〜40.0℃以上)、腹痛などの食中毒症状を呈しており、患者の住居および勤務先は様々で、共通食はクリニックで提供した昼食のみであった。昼食のごはん、茶碗蒸し、みそ汁についてはクリニックに隣接する病院(クリニックと同一法人が経営)で調理し、おかずは飲食店が調理した仕出し弁当であった。そのため、同日、病院と飲食店の両施設から検体が搬入され、食中毒細菌およびノロウイルスの検査を実施した。また、翌日、両施設の調理従事者および患者の糞便検査を実施した。なお、クリニックおよび病院職員は約230名、入院患者は約110名いたが、健康診断の受診者以外に発症者はなかった。

病院のふきとりおよび食材から病原菌は検出されず、調理従事者便からは大腸菌以外の有意な病原菌は検出されなかった。飲食店の使用水から病原菌は検出されなかったが、ふきとり20検体中5検体から黄色ブドウ球菌が検出され、食材5検体のうち、29日に喫食した「豚角煮」の残品1検体から、S. Eおよび黄色ブドウ球菌が検出された。また、調理従事者便3検体中2検体から黄色ブドウ球菌が、1検体からウェルシュ菌が検出された。一方、患者便からは52検体中35検体(検出率67%)のS. Eと、3検体(検出率5.8%)の黄色ブドウ球菌が検出された。なお、検出された黄色ブドウ球菌(11株)について、エンテロトキシン検査を実施したところ、すべて陰性であった。患者便から検出されたS. Eは、「豚角煮」を喫食した29日の受診者だけでなく、27、28日の受診者からも検出された。S. Eの検出状況はのとおりである。

仕出し弁当を喫食した3日間の各患者からS. Eが検出されたこと、および飲食店の残品である「豚角煮」からS. Eが検出されたことから、仕出し弁当を調理した飲食店が原因のS. Eによる食中毒であると断定し、7月4日から4日間の営業停止処分とした。

その後、検出された菌株について、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)により遺伝子解析した結果、「豚角煮」株のバンドパターンは27日の受診者の1株、28日の受診者の2株、29日の受診者の3株と完全に一致した()。

原因食品は仕出し弁当で提供されたおかずのいずれかと考えられたが、χ2検定の結果からは有意な食品を判定できなかった。また、飲食店はクリニックに、仕出し弁当を11時30分までに納品することになっていたため、調理従事者の人数が少ないこと、狭く区画のない施設設備等の理由から、おかずの一部(27日の揚げ物、28日のうなぎ蒲焼、セロリ付け合わせ、29日の豚角煮、とうがん、焼物)を前日調理していた。S. Eが検出された「豚角煮」は28日に調理した後、冷蔵保存し、29日に加熱せずそのまま提供していたが、とうがん、焼物は再加熱していた。能力を超えた飲食店での調理行為が食中毒に結びついた要因の一つであると考えられた。

疫学調査および細菌検査の結果、感染源および伝播経路は特定することはできなかったが、27〜29日の受診者から遺伝子パターンが完全に一致したS. Eが検出されたことから、施設内では少なくとも3日間の継続した高度な汚染状況があったことが示唆された。また、飲食店内の複数のふきとり(調理従事者2名の手指を含む)および食材から黄色ブドウ球菌が検出されたことから、作業ごとの手指および調理器具等の洗浄消毒が徹底されていなかったと考えられた。さらに、当該飲食店は汚染作業区域と非汚染作業区域との区画がされていなかった。今回の食中毒の原因は飲食店の一般的な衛生管理不足、特に、二次汚染によるものと考えられた。

本事例は、一般的な衛生管理の徹底により未然に防止できた食中毒であり、今後一層の衛生意識啓発に努め、衛生教育において、二次汚染防止等の衛生管理指導を徹底していくことが重要である。

宇都宮市衛生環境試験所 長谷充啓 中田友理 片岡俊輔 圍 俊彦
宇都宮市保健所生活衛生課 関  哲 吉成博雄

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