弁当が原因によるSalmonella Enteritidis食中毒事例−滋賀県

(Vol.27 p 197-198:2006年8月号)

はじめに:2005(平成17)年10月に滋賀県大津保健所管内の弁当屋が調理した弁当を原因食とするSalmonella Enteritidis(S. E)による大規模食中毒事例が発生したので報告する。

事件の概要:2005(平成17)年10月5日(水)午前11時50分、大津市内の医療機関から「食中毒様の症状を呈する患者を複数人診察した」旨、大津保健所に連絡があった。保健所が調査したところ、10月2日に管内の弁当屋で調理された昼食弁当を喫食した3学区10自治会の地区運動会参加者および夕食弁当(おかずのみ)を喫食した1グループの計711人のうち、238人が胃腸炎症状等を呈した。

有症者の症状は、下痢227名、腹痛186名、発熱166名、頭痛81名で、以下倦怠感、悪寒、吐気、嘔吐等であった。また、潜伏時間は4時間〜246時間(平均54時間)であり、100時間を超える有症者も8人いた(図1)。

結果等:病因物質の究明のため、施設・調理器具等のふきとり29検体、食材および食品(残品または同一ロット食品)13検体、調理従事者便8検体、有症者便22検体、衛生害虫2検体の計74検体について細菌検査を行った。その結果、ふきとり、食品および食材、衛生害虫からは食中毒菌は検出されなかったが、最長潜伏時間(246時間)の有症者便1検体(医療機関で菌株が分離され、当所において血清型別等を実施)を含む19検体の有症者便および従事者便2検体の計21検体からS. Eが検出された。

検出された21株のS. E株の関連性を調べるため、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行ったところ、Bln I処理後の泳動像パターンはすべて同一パターンであった(図2)。

また、ファージ型別を国立感染症研究所に依頼したところ、21株すべてPT47型であった。

有症者に共通した食事はこの日の弁当のみであること、また、発症の状況が同様であることから、これらの弁当を調製した弁当屋を原因施設とするサルモネラ食中毒と断定された。

しかし、施設・調理器具等のふきとり、食材および食品のいずれからもS. Eは不検出であり、また、S. Eが検出された従事者は2名とも当日調整された弁当を喫食していたため、汚染源の特定には至らなかった。

サルモネラ食中毒の平均潜伏時間は12時間といわれているが、今回の事例は平均潜伏時間54時間で、100時間を超える有症者もおり、ばらつきが大きい傾向にあった。この理由として、潜伏期間は菌量と個体差によって相違があるといわれており、原因食事中の菌量が少なかったこと、および有症者の半数近くが感受性の高いとされる10歳未満の小児であること等が原因であると考えられた。

最後に、本事例において1名だけ突出して長い潜伏時間(246時間)の有症者からもS. Eが検出された。同有症者は、喫食調査等の遡り調査等により食中毒患者と断定されたが、今回検出されたPT47型のS. Eは、近年、滋賀県内の散発下痢症由来患者からも多く検出されている株であったこと、さらにPFGE泳動パターンも非常によく似た泳動パターンを示していたことから、食中毒患者か散発下痢症患者かの判断が難しい事例であった。

滋賀県衛生科学センター
川端彰範 岩崎由紀 青木佳代 高木眞司 石川和彦 井上朋宏
滋賀県大津保健所

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