2005年8月19日、宮城県内の介護老人保健施設Aで、施設入所者96名のうち12名が18日0時〜19日1時にかけて発症し、3名が入院した旨、所轄の保健所に通報があった。症状は下痢(100%)、発熱(83%)、嘔吐(25%)であった。発症者の食事は同施設で調理したものだけであったことから、施設Aの食事を原因とする食中毒と推定し、疫学調査および原因物質調査を実施した。
入所者の発症者9名(前述の3名を含む)、非発症者52名、調理従事者11名、その他の職員56名、保存食品および原材料29検体とふきとり5検体、総計162検体について食中毒菌の検査を行った結果、入所者24名(発症者8名、非発症者16名)、調理従事者2名、保存食品の16日夕食のグリーンサラダおよびサラダの材料のカイワレ大根からSalmonella Montevideoが分離された。一方、その他の職員やふきとりから菌は分離されず、その他の食中毒原因菌も検出されなかった。グリーンサラダの喫食状況を保健所で聞き取り調査したところ、菌分離者はグリーンサラダを喫食していた44名中23名で、喫食しなかった13名からは菌が分離されなかった。また、喫食が不明の4名のうち1名からも同菌が分離された。なお、菌分離の調理従事者2名は味見としてサラダを喫食していた。患者と食品からS . Montevideoが分離され、発症者の症状がサルモネラ属菌による症状と一致したことなどから、本事例はS . Montevideoによる食中毒と断定された。
グリーンサラダはキュウリ、コーン、レタスおよびカイワレ大根をフレンチドレッシングで和えて食事に提供された。カイワレ大根は根を切断後、可食部を洗浄しサラダに使用し、保存用は根がついた状態のものを軽く洗浄し、施設Aの冷凍庫に−20℃で保存されていた。保存されていたサラダおよびカイワレ大根の菌量をEEM培地を用い5本法でMPN値で求めた。その結果、グリーンサラダで6.6/g、カイワレ大根で960/gであった。施設Aの調理献立表によると、1人当たりのグリーンサラダの量は55g、カイワレ大根は10gであったことから、1人当たりの摂取した菌量はMPN値で363〜9,600と推定された(表)。
カイワレ大根は県外の芽物野菜業者Bが生産販売したもので、施設Aでは市場より購入していた。そこで8月30日〜9月12日にかけて量販店よりB業者のカイワレ大根を22検体購入し、サルモネラ菌検索、一般生菌数測定を行った。その結果、9月12日に購入した1検体の可食部および根部分よりS . Montevideoが分離された。菌量は可食部MPN値2.1/g、根部分5.2/gであった。また、市販カイワレ大根可食部の一般生菌数はすべて106cfu/g以上であった。
食中毒由来株、市販カイワレ大根由来株のS . Montevideoについて17薬剤に対する薬剤感受性試験をドライプレート(栄研化学DP21)を用いた微量液体希釈法で行った結果、すべての菌株はスルファメトキサゾール/トリメトプリムに対しては耐性、残りの16薬剤には感受性を示した。
また,制限酵素Bln IおよびXba Iを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による遺伝子解析を実施した。Bln IによるPFGEパターンを図に示したが、両制限酵素によるPFGEパターンとも、食中毒患者由来株(レーン1〜4)、調理従事者由来株(レーン5、6)、グリーンサラダ由来株(レーン7)、食材のカイワレ大根由来株(レーン8)、市販カイワレ大根由来株(レーン9、10)のバンドパターンがすべて一致した。
今回の食中毒事例は、グリーンサラダおよびその食材のカイワレ大根からS . Montevideoが分離され、摂取菌量も10,000MPN以下の少量菌量による感染であった。一方、食中毒が発生した同時期、量販店から購入したB業者の市販カイワレ大根からS . Montevideoが分離された。菌株の薬剤感受性試験やPFGE解析パターンが一致したことから、これらは同一菌由来と考えられた。加えて、今回調査した市販カイワレ大根は22検体すべてにおいて一般生菌数が106〜108cfu/g の細菌汚染があった。芽物野菜は高温多湿を発芽の条件とするため、種子が食中毒菌に汚染されていると生産の過程で菌が残存し、可食部分も汚染される可能性が示された。これらのことから、生食用野菜による食中毒防止対策として、細菌汚染状況を把握し、これらの取り扱いについて十分啓発することが重要であると思われる。
なお、本事例の詳細については日本食品微生物学会誌に投稿中である。
宮城県保健環境センター
渡邉 節 菅原直子 小林妙子 山田わか 谷津壽郎 齋藤紀行