焼肉店を原因施設としたサルモネラ(Salmonella Derby、S . Anatum)による集団食中毒2事例−福岡市

(Vol.27 p 201-202:2006年8月号)

福岡市では、2005年8月および10月に、市内の焼肉店を原因施設としたサルモネラ(Salmonella Derby、S . Anatum)の食中毒が2事例発生したのでその概要を報告する。

事例1S . Derbyによる食中毒

2005年8月9日17時頃、市内の中学校から複数の生徒が食中毒様症状を呈し医療機関を受診したとの届出が当該保健所にあった。

調査の結果、2005年8月3日18時頃、同じテニス部に所属する中学生(39名)とその保護者(4名)、および教師(1名)の計44名が、市内の焼肉店Aで食事をし、そのうち16名が同日夜から食中毒様症状を呈し、うち7名が病院を受診、2名の検便からS . Derbyが検出されたことが判明した。患者16名は生徒であり、共通食はA店の焼肉食べ放題のみであった。食べ放題の内容は、牛カルビ、豚ロース、若鶏、トン辛(豚肉)、ピリ辛チキン,梅たれチキン、ウインナー、ホルモン、イカ、鶏の唐揚げ、フライドポテト、チヂミ、枝豆、キャベツ、ご飯、トマトであった。喫食から発症までの潜伏時間は、3時間〜86時間であり、平均28時間であった。主な臨床症状は下痢、腹痛、発熱であった。

当研究所にて、受診患者の菌株2検体、患者便7検体、従業員便3検体および施設のふきとり5検体について検査した結果、菌株および患者便の9検体から分離された菌株がS . Derbyと同定された。

事例2S . Anatumによる食中毒

2005年10月5日13時頃、食中毒様症状を呈した患者2名を診察し、患者2名の検便からサルモネラ属菌を検出したとの届出が、市内の医療機関から当該保健所にあった。

調査の結果、2005年9月30日19時頃、市内の焼肉店Bで会食した職場の同僚7名全員が、翌10月1日朝から食中毒様症状を呈し、うち5名が病院を受診したことが判明した。患者の共通食はB店での食事のみであり、喫食の内容は、焼肉(カルビ、ホルモン、鳥塩焼き、豚ナンコツ、エビ、イカ、ホタテ、野菜等)、馬のレバー刺し、地鶏のたたき、酢もつ、もつ煮込み、サラダ、漬け物、ご飯、シャーベットであった。喫食から発症までの潜伏時間は、13時間〜27時間であり、平均18時間であった。主な臨床症状は水様性の下痢、腹痛、発熱であった。

当研究所にて、受診患者の菌株2検体、患者便5検体、従業員便11検体、および施設のふきとり7検体について検査した結果、菌株2検体および患者便4検体、従業員便1検体から分離された菌株がS . Anatumと同定された。

今回の2事例については、どちらも残品が保存されていなかったが、患者および従業員に対する聞き取り調査から以下のことが推察された。

事例1の焼肉店では、客が注文した生肉を自ら焼いて食べるバイキング形式であり、患者らはトングや生肉用の取り箸を使わず肉を焼き、さらに加熱不十分のまま喫食しいていたことが判明した。S . Derbyは食肉から分離される菌であることから、本事例は生肉を加熱不足のまま喫食したか、あるいは生肉に付着した本菌を箸を介して経口摂取したことが原因であると思われた。

事例2の焼肉店では、焼肉以外に生食用食肉(馬のレバー刺し、地鶏のたたき)を提供しており、また、客に提供するメニューと同じ内容のまかない食を喫食した従業員からもS . Anatumが検出された。S . Anatumは鶏肉から分離されることが多く、本事例は地鶏のたたきが原因食品である可能性が高いと考えられた。

福岡市保健環境研究所
江渕寿美 馬場 愛 瓜生佳世 樋脇 弘

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