東部馬脳炎ウイルス(EEEV)は、沼地や湿地において主にCuliseta melanura により、鳥→蚊→鳥の感染サイクルが維持されており、Coquillettidia perturbans 、Aedes vexans 、Aedes sollicitans などの蚊によって、ヒトや他の哺乳類に伝播される。本ウイルスには4種類あるが、group Iは北米やカリブ海地域においてヒト症例を、group IIA、IIB、IIIの3種は中南米において主にウマに疾患を生じている。ヒトでの致死率は35〜75%と推定されている。
2005年8〜9月にニューハンプシャー州で7例、マサチューセッツ州で4例のヒト感染例が報告された。ニューハンプシャー州では、過去41年間において初めての報告であり、マサチューセッツ州では最近10年間の年間平均報告数(0.8例)の5倍に相当する。今回の調査での症例定義は、ニューハンプシャー州かマサチューセッツ州に居住し、2005年7月1日〜9月30日の期間に髄膜炎か脳炎を発症し、1)髄液で抗EEEV IgM抗体が陽性、あるいは2)血清で抗EEEV IgM抗体(IgM抗体捕捉ELISA 法)と抗EEEV中和抗体(プラーク減少中和試験)が上昇、とされた。
11例の発症日は8月1日の週〜9月12日の週の間で、年齢中央値は45歳(3カ月〜85歳)であり、男性は6例であった。11例すべてが入院し、うち4例が死亡した。11例のうち、9例は精神症状を伴う脳炎、2例は精神症状を伴わない髄膜炎であった。髄液採取は10例でなされたが、すべてにおいて細胞増多(白血球数77〜 1,468/μl)がみられた。ニューハンプシャー州の7例は州の南東部、マサチューセッツ州の4例は州の南東部に住んでいた。症例すべてが、媒介蚊の増殖、動物での伝播が起こりやすい沼地や湿地の近くで働くか、社交を行っていた。また、全員が沼地や湿地から800m以内の森林地域に居住しており、発症前2週間の時期の夜明けや夕暮れ時、蚊に刺される可能性がある野外活動をしていた。昆虫忌避剤の使用については6例で情報が得られたが、常に使用していたのは1例、時々使用していたのは2例、まったく使用しなかったのは3例であった。
蚊のウイルス保有状況については、50匹の蚊をプールして調べたが、ニューハンプシャー州では検体の0.4%(Culiseta morsitans 、他)、マサチューセッツ州では0.6%(Culiseta melanura 、他)が陽性であった。また、本症が疑われる動物を調べたが、野鳥、ウマ、アルパカ、エミュー、ラマなどで陽性結果が得られた。
本事例後、ニューハンプシャー州では一般市民への啓発活動を開始し、ヒト、ウマ、鳥類における本症のサーベイランスを強化し、患者の住居付近と曝露の可能性がある他の場所における蚊の捕獲を行った。また、マサチューセッツ州では進行中の蚊のサーベイランスと、一般市民啓発活動を継続している。
本症の伝播がありうる地域においては、無菌性髄膜炎や脳炎患者に対して本症の検査を行い、ヒトあるいは動物で本症が疑われるときは、医療従事者は州保健部局へ緊急通報すべきである。また、公衆衛生従事者は一般市民に対して、個人的防御手段を講じて本症や他の蚊媒介性疾患を予防するよう、アドバイスすべきである。
(CDC、MMWR、55、No.25、697-700、2006)