2006年5月、7カ月の乳児がサルモネラ敗血症を発症し、その原因として患児の家庭で飼育していたケヅメリクガメが感染源として疑われた事例の概要について報告する。
症例の概要および経過:患児は生後7カ月の男児。2006年5月4日より不機嫌と38℃台の発熱を認め、近医を受診。その際、おむつ内に下痢便が認められ、便培養を提出し、ホスホマイシンの内服を処方された。しかし、その後も高熱が持続するため、近医の紹介で5月8日から市内の総合病院に入院となった。入院時、下痢は認めず、顔色不良、哺乳力低下を認めた。また、血液検査上、WBC 9,800/μl、 CRP 8.84mg/dlと炎症反応の上昇を認めたことから、血液培養も合わせて行い、不明熱にてセフトリアキソン静注を開始した。入院2日目に血液培養陽性の連絡が入り、入院5日目にサルモネラ属と同定された。患児は、入院3日目より解熱傾向となり、1週間のセフトリアキソン静注と1週間のホスホマイシン内服を行った。入院9日目の5月16日軽快退院となった。入院時培養の結果より、サルモネラ腸炎に続発したサルモネラ敗血症と診断した。薬剤耐性は認めなかった。
疫学調査:糸魚川保健所では、5月12日市内の総合病院小児科医より乳児敗血症患者の血液培養にてサルモネラO13群が検出され、患児と家族との共通食がないことや、自宅でケヅメリクガメを飼育していると連絡を受けた。また後日、同医師より初診の近医での検便にてサルモネラO13群が検出されていること、総合病院の便培養においてもサルモネラO13群が検出されていると連絡を受けた。これら情報により、両親の同意のもと家族とカメの検便およびカメの飼育状態の調査を行うこととした。その後、患児および家族の飲食状況調査の結果から、家族の共通食や同時発症を疑わせる状況が無いことから食中毒を否定した。
細菌検査:ケヅメリクガメの糞便等10検体、患児を除く家族6名の便6検体について実施した(表のとおり)。ケヅメリクガメは、10検体すべてサルモネラ属陰性であり、家族は6検体中、兄2名と母よりサルモネラO13群を上越保健所にて分離した。血清型別は国立感染症研究所に依頼しS . Poonaと判明した。
ケヅメリクガメの飼育状況:1998年頃、家族が購入し飼育を始めた。今回の事件以前に家族がサルモネラ感染症に罹患した経験は無かった。カメは飼育経過とともに成長し、体長45cm、幅30cm、厚み18cm(甲羅部)の大きさで、冬期間は家屋内のケース内で飼育し、家屋内を徘徊させることは無かった。しかし、飼育ケースは子供が容易に接触できる環境にあり、餌付けなどの接触は日常に行われていた。また、接触後手洗いの習慣は無く、カメの洗体は家屋内の浴室で行われていた。
対応:保健所の対応としては、検査結果を家族に伝え、家族内での二次感染を防止するために消毒や手洗いおよびカメ飼育上の注意点等指導を行った。また、便培養でサルモネラ菌陽性者については、症状が認められないことから健康保菌者と考えられ、主治医に治療の適否と今後の菌保有状況のフォローについて依頼した。
考察:ケヅメリクガメより採取した10検体がすべて陰性であり、ケヅメリクガメを感染源とする仮説は立証できなかった。しかし、家族内の集団感染が証明され、その中で乳児は敗血症にまで至った。判明した血清型から、爬虫類を原因とする敗血症も否定できないことから、昨今のペットブームにより家庭内で乳幼児や高齢者への重症感染症を引き起こす危険性が示唆された。2005年12月厚生労働省から注意喚起が出されたが、爬虫類飼育に関する一般への注意喚起は十分とはいえず、さらなる広報活動が必要と思われた。
新潟県糸魚川保健所(糸魚川地域振興局健康福祉部)
西脇京子 飯塚俊子 渡邉 修 五十嵐加代子
糸魚川総合病院 小児科 種市尋宙 原井朋美 山腰高子
新潟県上越保健所(上越地域振興局健康福祉環境部) 岡尾勇一