犬等の輸入検疫の現状

(Vol.28 p 79-80:2007年3月号)

狂犬病は、発症すればほぼ100%死亡する動物由来感染症である。現在でも多くの国でヒトや動物における狂犬病の発生が見られ、WHO によると毎年4万〜7万人が死亡していると報告されている。

動物検疫所では現在、狂犬病予防法に基づき、犬、猫、きつね、あらいぐま、スカンクの輸入検疫を行っている(犬は家畜伝染病予防法にも基づく)。日本は約50年もの間、国内での発生が認められていない世界でも数少ない狂犬病清浄地域である。日本の輸入検疫制度は、国内で狂犬病が流行していた1950(昭和25)年に制定されて以降、大きく変わることがなかったが、2005(平成17)年6月、それまでの輸入検疫制度が抜本的に見直され、新制度が完全施行されたところである。

犬等の輸出入検疫規則では、各国を狂犬病の「清浄地域」と「それ以外地域」に区分している。「清浄地域」に該当するのは、発生状況やその地域の検疫制度を基に農林水産大臣が指定した11地域のみ[2007(平成19)年2月現在、本号2ページ図2]で、日本に輸入される犬等が満たすべき条件は、どの地域から輸入されるかによって大きく異なる。

清浄地域からの輸入では、マイクロチップ等による個体識別がなされ、輸出国で過去2年間狂犬病の発生がないこと、過去6カ月間継続的に輸出国に滞在していること、出国前の臨床検査で異常がないことが条件とされる。このような条件を満たす犬等は、狂犬病に罹患しているリスクは非常に低いと考えられることから、ワクチン接種や抗体価検査は条件とされていない。一方、それ以外の地域から輸入される犬等には、マイクロチップ等による個体識別がなされ、2回以上の狂犬病不活化ワクチン接種後、0.5IU/ml以上の狂犬病抗体価が証明されていることが条件とされる。さらに、抗体価検査によって感染防御が可能となったことが確認される以前の感染による狂犬病侵入リスク低減のため、輸出国における 180日間の待機が必要である。180日間の待機期間を満たさず日本に入国した場合は、残りの日数を動物検疫所の係留施設で過ごすこととなる。

日本到着時には、マイクロチップ読みとりによる個体識別と検査証明書の審査を行う。輸入条件をすべて満たしている犬と猫の係留期間は「12時間以内」とされているが、実際は諸手続に要する1〜2時間で輸入検疫証明書が発行されることが多い。しかし、個体識別ができない場合や、検査証明書の内容に不備がある場合などは、最大180日間の係留検査を行う。なお、きつね、あらいぐま、スカンクは、狂犬病清浄地域からの輸入条件は犬と同様であるが、それ以外地域から輸入は、有効と認められる狂犬病ワクチンがまだ存在していないことから、必ず180日間の係留検査を行うこととなる。

制度改正前と比較すると、特に清浄地域以外からの輸入条件が厳しくなり、入国までに半年以上を要するようになった。しかし、このような検疫制度を設けているのは日本だけではない。英国や豪州、ニュージーランド、ハワイなどの狂犬病清浄地域では、マイクロチップによる個体識別や、抗体価検査と長期係留を組み合わせた制度が以前から実施されており、狂犬病常在地からの犬や猫に対して、輸入禁止あるいは180日間の係留検査を必須としている地域もある。

係留検査は、動物検疫所の施設で行われる。制度改正前は、一定条件のもとに動物検疫所以外の場所(飼い主の自宅など)での係留を許可していたが、新制度ではすべて動物検疫所の施設で行うこととなった(例外として盲導犬や災害救助犬は係留施設からの持ち出しが許可される)。このため、老齢や病弱な犬や猫の場合、係留検査に対して飼い主の理解を得ることに苦慮することもある。

1998(平成10)年以降の犬と猫の輸入頭数をに示す。近年、犬の輸入頭数は年間10,000〜15,000頭で推移してきたが、2003(平成15)年にはペットブームに伴い、商用の若齢犬の輸入が急増した。これらの子犬の多くは狂犬病清浄地域以外から輸入されていたが、制度改正により結果的に輸入不可能となったことから、制度改正後の2005(平成17)年以降は輸入頭数が減少している。一方、猫の輸入頭数は、検疫対象動物となった2000(平成12)年以降、年間約2,500頭前後であったが、制度改正後は約1,600頭に減少している。

制度改正により狂犬病侵入のリスクは低減したが、今後、狂犬病清浄地域としてのステータス維持のため、実際の輸入前の手続きが適正に実施されているかのモニタリング等が重要な課題と思われる。

また一方では、海外からの小型漁船に搭載されている犬が、停泊中に港へ上陸(不法上陸犬)している姿が複数の港で確認されており、稚内市においては2005(平成17)年に39頭確認され、これらの犬による咬傷事故が4件起きている。動物検疫所では管轄保健所や港湾関係者らと情報交換を行い、外国語による不法上陸犬防止の立看板の設置や、船員へのリーフレットの配布、ID付き首輪およびリードの譲渡、あるいは外国語音声テープにより上陸禁止を呼びかけるなど、不法上陸犬防止の啓発活動を行うことで、未検疫のまま国内に入ってしまう犬に対しても監視を強化している。

動物検疫所企画連絡室企画調整課 池田亜季

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る