介護施設における基質拡張型β- ラクタマーゼ産生大腸菌による集団発生、2006年5月−アイルランド

(Vol.28 p 89-89:2007年3月号)

アイルランドの介護施設で、2006年5月の1週間のうちに、尿路感染を有する2名の入居者で基質拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌が分離された。調査の結果、同年1〜5月に他の5名の尿検体でESBL産生大腸菌が検出されていたことが判明し、集団発生調査チーム会議が開かれた。症例定義は入所者で、2006年に尿から有意な数(>105/ml)のESBL産生大腸菌が検出された者とした。2005年にはこの地域で56株のESBL産生大腸菌が検出されていたが、この介護施設では6月に1株が検出されただけであった。調査チームは入所者のデータの収集と、肛門スワブ検体の採取を行った。

この介護施設は定員50名で、トイレと浴場は共用となっていた。この集団発生が明らかになった時には44名の入居者がおり、男性18名、女性26名で、年齢分布は33〜105歳、中央値は87歳であった。32名に尿失禁、14名に便失禁があった。現在までのところ、ESBL産生大腸菌による重症の全身感染を生じた者はみられていない。また、2006年の1〜5月では、主に呼吸器感染や尿路感染などの治療として44名中41名が抗菌薬治療を受けていた。このうち、14名が5クール以上の抗菌薬投与を受けており、10名が第3世代セフェム系薬、6名がフルオロキノロン系薬の投与を受けていた。なお、5名の一般開業医が治療に関与したが、抗菌薬処方に関するマニュアルは用意されていなかった。

肛門スワブおよび尿検査の結果、24名の入所者からESBL産生大腸菌が検出された。トイレの便座など、22件の環境検体はすべて陰性であった。26の分離株でパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)検査を行った結果、20株(18人分)が相同パターンを示した。集団発生由来株はフルオロキノロン系薬、ゲンタマイシン、トリメトプリムに耐性であったが、ニトロフラントインには感性であった。

今回の集団発生への介入策として、入居者・家族・スタッフへの教育、衛生的操作や感染制御策の改善、抗菌薬使用の制限などが行われた。

介護施設では、ESBL産生大腸菌や他の抗菌薬耐性細菌の伝播が起こりうることが浮き彫りにされた。入居者は呼吸器感染や尿路感染を起こしやすく、抗菌薬の使用が多くなりがちであり、また病院から直接に入所することも多い。

(Eurosurveillance Weekly 11, 31 August, 2006)

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る