生肉の喫食が原因と推測されたクリプトスポリジウム症の事例−堺市

(Vol.28 p 88-89:2007年3月号)

2006年10月に市内飲食店で会食した4人より下痢、腹痛、発熱等の症状を呈していると当市保健所に届出がなされた。発症者便よりクリプトスポリジウムを検出し、飲食店における生肉の喫食によるクリプトスポリジウム感染と考えられた事例を報告する。

経過:2006年10月7日、市内焼肉店において職場の同僚4人が飲食を行い、焼肉のほかユッケと生レバーを喫食した。10月12日〜14日にかけて4人全員が下痢、腹痛、発熱等を発症した。生レバー等を共通食としていたため食中毒を疑い、10月17日に当市保健所に届出された。10月18日有症者便3件と焼肉店調理場のふきとり検体および生レバー(10月7日提供分とは異なる)が搬入され、病原性細菌とノロウイルス検査が依頼されたが、焼肉店での飲食が原因とすれば、水様性下痢が主症状で血便が認められなかったこと、嘔吐の程度が少なかったこと、潜伏期間が5日以上あることなどから、クリプトスポリジウム等の原虫類検査を追加実施した。10月19日焼肉店従業員便が搬入され同様の検査を実施した。

発症者状況表1に発症者状況を示す。発症日は10月12日〜14日で、10月7日の喫食が原因とすると、潜伏時間は119時間〜170時間、平均135時間(5.6日)であった。腹痛および水様性下痢は全員に認められ、下痢回数は8回〜15回であったが、血便は認められなかった。軽度発熱が3名に認められた。

喫食状況:発症者全員が焼肉、生レバー、ユッケを喫食。当該飲食店の10月7日の利用客は11組23人で、他の利用客からは同様の苦情はなかった。7日、8日は利用客5組に対し、生食用メニューとして生レバー7人前、ユッケ6人前、生センマイ2人前を提供したが、同様の苦情はなかった。同日提供の生レバーはY業者から購入しており、翌8日にも生レバーとして提供していた。Y業者は7日当日、当該飲食店のほか3カ所に生レバーを販売したが、同様の苦情はなかった。使用水は堺市上水道を使用し、井戸水等の使用はなかった。

検査結果:細菌検査およびノロウイルス検査は陰性であった。有症者便からショ糖遠心浮遊法によりクリプトスポリジウムのオーシストを検出した。確認のため、集オーシスト検体の直接蛍光抗体法およびDAPI染色を実施し、3件すべてからクリプトスポリジウムのオーシストを確認した。一方、従業員便は2件ともクリプトスポリジウム陰性であった。陽性者便3検体の遺伝子検査(18S rRNA領域の約435塩基対)の結果、塩基配列は100%一致し、Cryptosporidium parvum ウシ型(genotype 2)と同定された。

考察:4名の共通食は当該飲食店以外に職場の給食がある。給食提供数は約100食分であるが、他に同様の症状を呈しているものがおらず、給食を介しての感染は否定された。4名には海外渡航歴もなく、潜伏期間およびクリプトスポリジウムの遺伝子型からは当該飲食店における食中毒事例が疑われた。しかし、他の利用客および同一商品の仕入れ先店からも同様の苦情はなかったため断定にいたらず、今回の事例は有症苦情として処理された。

クリプトスポリジウムによる感染は潜伏期間が長いため、今回のような散発事例では、他の同様な届出がなされない場合、発症と感染源を結びつけることは困難である。また、クリプトスポリジウム検査を実施している機関も少ないため、表在化しないクリプトスポリジウム症が多いと推測される。

今回の発症者には調理関係者が含まれていたが、細菌・ウイルス検査の結果を待つことなく、クリプトスポリジウム症と判明し、迅速に二次感染予防に対応できた。食中毒が疑われる下痢症事例には、細菌学的、ウイルス学的検査に加えて、クリプトスポリジウムを含めた原虫検査の積極的な実施も必要と考える。

堺市衛生研究所
吉田永祥 松尾光子 三好龍也 内野清子 田中智之
堺市保健所 中口博行 福本俊夫 寺中陽子

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