Mホテルにおけるノロウイルスによる集団胃腸炎の発生について

(Vol.28 p 84-84:2007年3月号)

2006年12月に、東京都豊島区内のMホテルにおいてノロウイルス genogroup (G) IIによる集団胃腸炎が発生したので、その概要を報告する。

1.事件の概要
2006年12月5日(火)、池袋保健所はMホテルから12月2日、3日の宴会等の利用客で複数グループから嘔吐・下痢等の症状を呈している者がいるとの報告を受けた。

池袋保健所は食中毒および感染症の両面から調査を開始し、ホテルへの立ち入り調査、主厨房等のふきとり検査、残品食材の収去・検査、12月2日・3日の宴会場の利用客を中心とした健康状況調査、従業員の健康状況調査と便検査、利用客の有症状者の便検査等の疫学調査を実施し、消毒の指導を行った。

ホテルは食中毒の可能性も考慮し、12月6日より宴会主厨房や一部レストラン等の営業を自粛し、体調不良従業員の出勤停止、数回におよぶ全館の消毒を実施した。

池袋保健所は、12月11日までの患者糞便中からノロウイルスが検出されたが、疫学調査からは食中毒によるものとは断定できず、ノロウイルスによる感染性胃腸炎の集団発生である可能性が濃厚であると推測した。このことからホテルに対し自主的に使用停止としていた厨房等の営業は、施設の消毒や従業員の健康管理の徹底のもと、再開可能であるとの見解を示した。なお、ノロウイルスの検出分析は東京都健康安全研究センターで行われた。

2.発症者推計  436名

  内訳  ホテルに発症の連絡をした12月2日〜10日の利用客  364名
   ・364名のうち188名は池袋保健所で確認 
   ・364名のうち12月2日・3日の利用客は300名 
   ・364名のうち353名が3階(163名)・25階(190名)の宴会出席者
 ホテル従業員72名
3.原因物質
 ノロウイルス(GII)
利用者の発症者のうち、検査人数92名、うち71名陽性
従業員の発症者のうち、検査人数38名、うち5名陽性

4.分析結果
Mホテルにおける嘔吐・下痢等の集団発生の原因は、総合的に判断して、最終的には感染経路が特定できなかったが、疫学的調査からは食中毒によるものとは断定できず、何らかの原因で外部からMホテルにノロウイルスが持ち込まれ、感染性胃腸炎の発生に至った可能性が高いことが推測された。

<理由>
1)宴会食そのものからはノロウイルスは検出されていない。
2)厨房の調理員には症状がなく、検便からもノロウイルスが検出されていない。
3)宴会食以外のホテルで調理した食事を食べた利用客からも発症者がでていることから、発症者全員の共通食がない。
4)ホテルで調理した食事を食べていない利用客や、ホテル従業員からも同時期に発症者が多数出ている。
5)例年より早く、ノロウイルスによる感染性胃腸炎が全国的に流行している中で、12月2日にホテルの利用客の一人が、発症者が集中している3階と25階の両フロアで、宴会場前の通路の絨毯の上に嘔吐していた。
6)3階の嘔吐場所の絨毯の通路は広く、比較的換気も良い状況と考えられるが、25階の嘔吐場所は幅が2メートル、長さが50メートル程の絨毯の通路の上であり、天井も低く、両側に宴会室があり、比較的換気が悪い状況と考えられる。
7)嘔吐した利用客を介助したホテル従業員からもノロウイルス(GII)が検出された。
8)嘔吐物の処理は洗剤で清掃し、ノロウイルスの消毒に関しては不十分であった。このため、かなりのノロウイルスが絨毯に付着し、乾燥して、その絨毯の上を多くの人が歩くことにより、また絨毯を掃除機で掃除したことなどから、空中にノロウイルスが飛散し、経口感染につながった可能性があること。また、嘔吐した利用客が3階と25階のトイレを利用していることから、トイレや介助した従業員にもノロウイルスが付着して汚染を拡大し、多くの人が接触して経口感染につながった可能性があること。ただし、これらのことは、絨毯やトイレのふきとり検査や、絨毯の掃除機のチリの検査を行っていないことから推測ではある。

5.ホテルへの対応
ホテルに関しては、これまでに館内の清掃、消毒の徹底と、感染性胃腸炎のまん延防止対策、従業員の手洗いやうがいの徹底等の衛生管理や健康管理について繰り返し指導を行ってきたが、今後も継続することを強く指導した。
(平成19年1月30日)

池袋保健所健康推進課 木村博子 上野曜子
 生活衛生課 清水みつ子 永野浩二
 所 長永井 惠

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