2006年度第2期麻疹・風疹ワクチン接種に関する全国調査
  −2006年10月1日現在中間評価−

(Vol.28 p 85-86:2007年3月号)

2006年4月1日施行の予防接種に関する政省令の一部改正により麻疹風疹混合ワクチン(以下、MRワクチン)を用いた定期接種が可能となり、同年6月2日から、わが国においてもようやく麻疹および風疹ワクチンの2回接種が定期接種に導入、開始された。接種対象者は、第1期が1歳児、第2期が5歳以上7歳未満で小学校就学前の1年間にあたるものとされた。しかし一方で、2回接種法開始の初年度であるということ、年度内の数回にわたる予防接種に関する政省令の一部改正に伴い、医療や行政の現場において混乱が生じている可能性があることなどから、第2期の接種率の低迷が予想された。

そこで我々は、全国の市町村(特別区)の現状を把握するために、初年度の第2期麻疹・風疹ワクチン接種率に関する調査「第2期麻しん風しんワクチン接種に関する全国調査」を2006年10月1日現在と、2007年3月31日現在の2回にわたり実施することを計画した。1回目の中間評価として、2006年10月1日現在の第2期麻疹・風疹ワクチン接種率の全国調査結果に関して報告する。

方法は、往復はがきを用いた質問票調査で、全国1,843市町村(特別区)(2006年4月1日現在)を対象に、2006年10月1日までに実施した制度改正に関する保護者への周知方法、2007年度小学校入学予定人口、接種者数(第2期MRワクチン、第2期麻疹単抗原ワクチン、第2期風疹単抗原ワクチン)に関して、2006年12月15日に調査票を配布し、回収した。

2007年1月31日までに1,467の市町村(特別区)から返信(回収率:79.6%)があった。そのうち、接種率に関する有効回答数は1,455 (78.9%)で、2006年10月1日現在の第2期対象者における麻疹を含むワクチンの接種率[(第2期MRワクチン接種者数+第2期麻疹単抗原ワクチン接種者数)/2007年度小学校入学予定人口] は29.4%、同様に風疹を含むワクチンの接種率[(第2期MRワクチン接種者数+第2期風疹単抗原ワクチン接種者数)/2007年度小学校入学予定人口]は29.9%であった。接種したワクチンの種類を見ると、麻疹を含むワクチン接種者数のうち、MRワクチンが99.6%、麻疹単抗原ワクチンが0.4%、風疹を含むワクチン接種者のうち、MRワクチンが97.8%、風疹単抗原ワクチンが2.2%を占めていた(図1)。2006年10月1日現在の都道府県別の接種率を第2期MRワクチン接種率が高い順に表1に示した。最も高かったのは徳島県(第2期MRワクチン接種率:42.2%)で、最も低かったのは沖縄県(第2期MRワクチン接種率:12.1%)であった。

複数回答可[「その他(自由記載)」を含む6択]で行った周知に関する質問では、有効回答数1,466(79.5%)のうち、2006年10月1日までに対象者に何らかの「お知らせ」をした市町村(特別区)は1,398(95.4%)、しなかった市町村は68(4.6%)であった。周知したと回答のあった市町村(特別区)における麻疹を含むワクチンの第2期接種率は29.8%、風疹を含むワクチンの第2期接種率は30.3%であったのに対し、周知をしなかったと回答した市町村(特別区)における麻疹を含むワクチンの第2期接種率は13.6%、風疹を含むワクチンの第2期接種率は14.7%であった。周知方法として、83.2%の市町村(特別区)が個別通知を行っていた(図2)。

最後にコメント欄を設け、自由記載とした結果、305の市町村が何らかの記載をしていた。内容は、2006年10月1日以降の周知・接種状況に関するものが263、制度改正に関するコメント・要望が23、担当者の考察・感想が7、その他が12であった。2006年10月1日以降の接種状況に関して、「9月の補正予算後に定期接種として実施するため、接種は2006年10月1日以降となる」といったものが多く見られた。制度改正に関するコメント・要望はすべてが、制度改正による現場の混乱を示すものであった。その他には、担当者が2回接種開始や制度改正そのものを理解していなかったが、本アンケート調査が実施されたことによって、制度が変更されたことに気付いたというものもあった。

以上の結果から、2006年10月1日現在の第2期麻疹・風疹ワクチンの接種率は全国的に非常に低く、2回接種開始初年度の接種率は、積極的な接種勧奨を実施しなければ、低いまま次年度を迎えることが懸念された。2007年3月31日までに、全国的な接種率向上に向けたさらなる取り組みが必要と考えられる。医療従事者や保護者への接種制度の改正に関する情報提供はもちろんのこと、2回接種の必要性に関する知識の普及も「小学校入学前には麻疹と風疹の予防接種を受けに行く」という行動を促す上で、非常に重要であると考える。さらに、接種率向上に向けた周知方法の再検討と2007年3月31日までにできる限り一人ひとりに情報が届くようなきめ細やかな対応、およびそれを可能にする予算ならびに接種体制の確保が必要と考える。

数回にわたる予防接種制度の改正が現場に混乱を生じさせている現状が、一部の自由記載から読み取れた。制度改正により、予算確保が必要となるだけでなく、予算が確保され接種が可能となる時期によっては接種可能期間の短縮という問題が生じ、結果的に初年度の接種率の低迷と、それによる接種もれ者数の増大を助長させると考えられた。さらに、制度改正が短期間に複数回認められた場合、医療や行政の現場だけでなく、保護者に混乱が生じるのは必至で、それがいかにより良い改正であったとしても、理解され難い、信用されない、という悪影響を与える可能性がある。これらの点からも、今年度は特に、よりきめ細やかな個人への対応が必要である。

現在、国立感染症研究所感染症情報センターでは第2期麻疹・風疹ワクチン接種を呼びかけるポスターを作成し、ホームページ上で公開、ダウンロードして使用可能としている(http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn07.html)。 今後2007年3月31日まで、いかに接種率を向上させることができるか、国全体での取り組みが必要と考える。2007年5月に予定している2007年3月31日時点(今年度最終評価)の接種率がどのような結果になるか、2007年10月1日以降の接種勧奨の評価という点においても、非常に興味深い。その結果は、解析が終了次第、本速報にて還元予定である。

最後に、本調査にご協力いただいた市町村(特別区)の関係者の皆様にお礼を申し上げるとともに、2007年5月に予定している最終評価のための調査にも是非ご協力いただければ幸甚である。

なお本研究は、厚生労働科学研究費補助金(新興・再興感染症研究事業)「予防接種で予防可能疾患の今後の感染症対策に必要な予防接種に関する研究」(主任研究者:岡部信彦・国立感染症研究所感染症情報センター)に基づいて実施した。

国立感染症研究所感染症情報センター 上野久美 多屋馨子 岡部信彦

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