国立感染症研究所細菌第一部に送付され、解析を行った2006年分離のヒト由来腸管出血性大腸菌(EHEC)は2,415株あり、そのうちO157は1,791株、O26は440株であった(2007年1月現在)。
2006年にはXba Iによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンがO157で809種類(Type No. b1〜b761およびその他)見られ、少なくとも3つ以上の異なる都府県から分離された同一PFGEパターンが37種類あった。このうち、5つ以上の都府県から分離されたO157には11種類の泳動パターンがあったが、Bln IによるPFGEパターンにおいてもそれぞれ同一であるものは、Type No. a259、a829、b330、b328、b223の5種類であった(図1)。Type No. a259、a829は2005年に見出されたパターンであるが、Bln IによるPFGEパターンを比較すると、2006年分離株のパターンとは異なっていた。a259は26都府県の散発事例から131株が、4月〜12月の長期にわたって分離されていた(図2)。このうち67株についてBln IによるPFGEパターンを調べると、63株のパターンが一致し、その他に異なる3種類のパターンがあった。
Bln Iでもパターンが一致する63株について、Multiple-locus variable-number tandem repeat analysis(MLVA)法により9種類の遺伝子座について調べると、すべての遺伝子座で繰返し数が一致する株が15株、1遺伝子座について繰返し数が1異なる変異株(SLV1)が36株あった。残りの12株については、1遺伝子座で繰返し数が2異なる変異株から2遺伝子座で繰返し数が2以上異なる変異株まで、8種類の異なるMLVAタイプに分けられた。
PFGEとMLVAによる型別でも一致している株については、分離地や分離時期が異なっているものの、それぞれの遺伝学的関連性が極めて高い可能性が示唆された。a829およびb330は、散発事例の他にそれぞれ集団発生事例を含んで広域から分離されていた。特にb330は発生時期が約40日間と短く、散発事例由来株においても、調べた39株すべてでBln IによるPFGEパターンが一致していた。また、b330についてはMLVAにより、すべての遺伝子座で繰返し数が一致する株が32株、SLV1が6株、1遺伝子座で繰返し数が2異なる変異株が1株となった。a259の株と同様、両者の型が一致する株においては遺伝学的関連性が極めて高いと考えられた。
分離地が異なっていても発生時期が近い株では、共通の感染源が存在することを示唆すると考えられるが、それぞれのタイプにおける感染源が共通のものであるか否かについては不明である。このような広域に及ぶ事例を早期に探知してその拡大を防ぐとともに、原因究明に向けた対策が重要である。
国立感染症研究所細菌第一部
寺嶋 淳 泉谷秀昌 伊豫田 淳 三戸部治郎 渡辺治雄