焼肉店における腸管出血性大腸菌O157の食中毒事例−金沢市

(Vol.28 p 135-137:2007年5月号)

金沢市内の焼肉店において、腸管出血性大腸菌(EHEC)O157による食中毒事件が発生したので概要を報告する。

探知:2006年8月10日、金沢市内の医療機関より、20歳女性の3類感染症の発生届があった。患者は8月6日の夜から腹痛の症状があり、7日に下痢、発熱等の症状を認め医療機関を受診し、10日に便培養の結果、EHEC O157(VT2)が検出された。

上記の報告を受け、直ちに患者の喫食状況等を調査したところ、7月28日に会社の同僚25名と市内焼肉店で喫食しており、うち数名が下痢、腹痛等の食中毒症状を呈していることが判明し、本件を探知した。

症状等:患者は、19歳〜50代までの男女7名で、7月31日〜8月6日の間に発症し、平均潜伏時間は148.5時間であった(表1)。

主な症状は、下痢、腹痛および嘔吐であり、重症に至った者はいなかった(表2)。

原因の探求:届出の患者は、会社の他の同僚24名と7月28日午後5時30分から原因施設において焼肉料理[焼用:牛バラ、牛レバー、牛ハツ、牛ホホ、豚バラ、豚ホルモン、豚モモ、豚軟骨、鶏のモモ、焼野菜:キャベツ、人参、タマネギ、しいたけ、しめじ、茄子、ピーマン、生食用:ユッケ(牛モモ)、牛レバー刺身、生センマイ]を喫食した。

喫食グループ25名中7名が食中毒様の症状を呈し、同グループの10名からEHEC O157(VT2)が検出された(表3)。

また、当該患者グループの共通食は、原因施設での焼肉料理のみであったことから、当該施設で提供された焼肉料理を原因とする食中毒と断定した。

喫食状況から、患者もしくは陽性者、計12名の全員がユッケを食べていることから、ユッケを原因とする可能性が高かったが、喫食の内容において、生食[ユッケ(牛モモ)、牛レバー刺身、生センマイ]以外のメニューについては、セットで提供されており、患者の記憶が曖昧であったため原因食品の特定までには至らなかった。

汚染の原因としては、当該施設で仕入れた牛肉等の精肉にEHECが付着して店内に持ち込まれたと考えられるが、納品伝票、在庫および使用肉等の管理を行っていなかったために原因食材の特定はできなかった。

汚染経路としては、
 (1)ユッケの材料である牛モモブロックの表面に汚染があり、表面を十分に取り除かずに提供した。
 (2)調理器具を介してユッケが汚染された。
 (3)客用の肉焼きトング(物を挟んだりつかんだりする道具)が常備されていないため、摂取時に箸が汚染された。
等の可能性が考えられた。

EHECの検査を、喫食者グループ25名、原因施設の従業員3名、およびふきとり9検体について実施した結果、喫食者10名からO157:H7(VT2)が検出された。検出された菌株10株は、国立感染症研究所でのパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)による遺伝子解析の結果から、菌株間でバンド1本の違いは見られるものの、すべてが同一由来であることが示唆された。

従業員およびふきとりからは、O157:H7(VT2)は検出されなかった。

結論:本件では、患者の糞便等からEHEC(O157)が原因物質と特定できたが、提供当日の食材が残っていなかったことや、喫食後10日間と日数が経っていたため、原因食品および汚染経路まで特定することはできなかった。

しかし、施設の調査をした結果、ユッケに使用した牛モモブロック、牛生レバーおよび生センマイなどに「生食用」の表示はなく、生で食した肉等に付いていた可能性が考えられた。

また、施設では客が肉を焼く際に用いるトングを用意しておらず、焼くときに使用した箸と食べるときに使用した箸を混用し、そのために感染した可能性も考えられた。

前者については、毎年の監視時に“ユッケ、牛生レバーを提供する場合は、「生食用」の表示があるものしか提供してはならない”、“生食用の肉を調理する場合は、専用のまな板、包丁を用い適切に処理して提供する”、など指導しているが、多くの店舗が「生食用」の表示のないユッケや牛生レバー等を提供している。このことに関しては、客の多くが肉等の生食を求め、施設側が商売上断れないケースや、市場に「生食用」の表示がある精肉の流通がほとんどないことなどが外的要因にあげられる。

また、後者については、客の箸の使い方に問題はあるが、トングを用意することで、客の精肉に対する注意喚起を促すことができると思われる。

今後は、焼肉店だけでなく、消費者が生肉の危険性についてもっと知るべきであると考え、その啓発に力を入れていきたいと思う。

金沢市保健所衛生指導課
食品衛生担当 吉田裕雪 河合千弘
衛生検査微生物担当 梨子村絹代 吉藤香代

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