焼肉店が原因施設とされた腸管出血性大腸菌O157の食中毒事例−藤沢市

(Vol.28 p 138-139:2007年5月号)

2006年9月、観光地にある焼肉店を原因施設とした腸管出血性大腸菌(以下EHEC)の集団食中毒事例が発生したので、その概要を報告する。

2006年9月27日、藤沢市内の医療機関から藤沢市保健所に下痢(血便)、発熱(38℃)、腹痛の症状を呈する21歳の男性1名からEHEC O157(VT2)を検出したとの届出があった。保健所にて患者の摂食状況等を調査したところ、9月21日(木)に市内の焼肉店を利用していることが判明した。その後、10月4日(水)に東京都内および横浜市内、10月5日(木)に茅ヶ崎市内の医療機関から各1名の「EHEC感染症届」があり、それぞれの管轄保健所が摂食状況等を調査したところ、各患者は藤沢市内の同じ焼肉店を利用していることが判明した。

陽性者の認められた摂食日は9月21日(木)〜10月1日(日)で、この期間の全利用者数は987名であった。そのうちの6割は土曜日、日曜日の利用であり、原因施設が観光地にあるという特徴を示していた。陽性者の認められた日の利用者数および陽性者数は表1に示した。

当保健所においては、摂食者便6検体、従事者便12検体、ふきとり19検体について検査を実施した。食品に関しては残品がなく、ユッケ用生肉1検体の検査を参考品として実施した。その結果、摂食者3名、従事者3名の計6名よりEHEC O157:H7が分離された。Vero毒素遺伝子型はすべてVT2であった。ふきとり検体および参考食品のユッケ用生肉から本菌は検出されなかった。本菌陽性者6名のうち、摂食者の1名および従事者の3名は非発症者であった。その後、他機関で分離された事例を含め、最終的に本件における陽性者数は13名となった。

原因食品は、患者の摂食と提供メニューとに有意な差が認められなかったため究明には至らなかったが、患者の共通する食事が当該焼肉店に限られていたこと、同一摂食日に複数の患者を確認できたこと、検出された分離菌株のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)のパターン(図1)が一致したことから、当該焼肉店の提供した食事を原因とするEHEC O157食中毒と決定し、営業禁止の行政処分を行った。

発生要因としては、EHEC O157に汚染された食品を介して発生したか、あるいは従事者(健康保菌者)による二次汚染が考えられたが、特定はできなかった。なお、従事者は賄い食として店のメニューと同様なものを日常的に摂食していることから、従事者がそれらの食品により感染した可能性も推察された。

PFGEは、神奈川県衛生研究所において、東京都、横浜市から分与された分離株を含めた13株について実施した。制限酵素Xba Iを用いた解析結果では、菌株No.12レーンのパターンにバンド1本の違いが認められるが、ほぼ同じパターンを示していることから、13株はすべて同一の起源である可能性が示唆された(図1)。

本事例は、藤沢市、東京都、横浜市、茅ヶ崎市と、広域的に相次いで出された散発事例の発生届が、観光地の飲食店に結びつき、疫学調査やPFGEパターンなどの結果から、当該焼肉店の食事を原因とする食中毒であることが判明したものである。

藤沢市保健所 佐藤 健 今井良美 大野文明
神奈川県衛生研究所 石原ともえ

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