保育所で発生した腸管出血性大腸菌O157による集団感染事例−富山県

(Vol.28 p 139-140:2007年5月号)

2006年8月28日17時20分、県内医療機関より、下痢、腹痛、発熱の症状を呈した患者(保育園児)が多数発生しているとの報告が管轄厚生センターに届けられた。また、同日17時30分、管内のA市所在のB保育所からも同様の届出が出された。管轄厚生センターは直ちに当該保育所の調査を開始し、患児の状況を医療機関に確認した。その結果、患児に下痢、腹痛、血便、発熱等の症状が確認され、腸管出血性大腸菌(EHEC)の集団感染が疑われた。このため、28日夜から、患児らの検便を実施した。翌29日、医療機関からEHEC O157(VT1&VT2、以下O157)感染症の発生届があるとともに、前日実施した検便結果からO157が疑われた。

29日からB保育所の園児、職員、家族の健康調査と検便を実施したところ、園児59名、職員6名、家族等接触者9名よりO157:H7が検出された。また、O157を検出することはできなかったが、入院治療を要した患児5名について、国立感染症研究所にO157血清抗体価測定を依頼した。その結果、O157抗体価が高値であったことから、O157感染が推測された。O157感染者の内訳は表1に示すとおり、保育所の1歳児クラス〜4歳児クラスに感染者が集中し、0歳児クラスには感染者がいなかった。有症者は72名であり、うち入院患者は18名、溶血性尿毒症症候群(HUS)を併発した患者は2名であった(表2)。

検便によりO157:H7が検出された感染者74名について分離菌株のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行った。その結果、O157分離菌株74株の泳動パターンは5つに分類された(図1)。最も多かった泳動パターンはパターン1(69株、全分離菌株の93%)で、その他のパターンはそれぞれ1、2株であった。

疫学調査により、発症のピークは8月25日〜26日であり(図2)、有症者は1歳児クラス〜4歳児クラスに多く見られた。一方、5歳児クラスの発症者はいずれも8月29日前後の発症であることから、二次感染であると考えられた。9月3日以降新たな発症者はなく、感染者は当該保育所園児の接触者にとどまった。

また、検食、調理員の便からO157は検出されなかったため、給食を原因とする感染ではないと考えられた。感染者の行動調査を行ったが、期間がお盆の前後であり、帰省等の県外への旅行、バーベキューなどの野外での喫食、外食等が多く、感染源をさかのぼり、特定することはできなかった。このような疫学調査の結果から、保育所内の人→人感染が推察されたが、保育所内の施設、遊具等のふきとりからはO157を検出することができず、感染源・感染経路を特定することはできなかった。

1歳〜4歳児の各クラスに感染が拡大した要因として、おむつ交換時や排便後の手洗い、消毒の不徹底が考えられた。また、1歳児クラス〜4歳児クラスは発症ピークの1週間前からの期間に水遊びを行っていたことから、水遊びも感染を拡大させた要因と考えられた(0歳児クラスおよび5歳児クラスはその間に水遊びを行っていなかった)。

管轄厚生センターは保育所に対して、給食調理の自粛、有症者および感染者の登園自粛、手洗い消毒設備の整備と、職員と園児の手洗い消毒の徹底などについて指導し、感染者宅には個々に訪問指導を行った。また、地域基幹病院に依頼し、優先的な受診体制と小児病床の確保、患者状況の把握等を行った。A市は市内保育所等の消毒を行うとともに、O157に関するチラシを市内全戸に配布した。管轄厚生センターでは無料検便等の健康相談窓口を設置し、ケーブルテレビなどで、地域住民に対してO157に対する感染予防策を呼びかけた。このような早期の検便、保育所に対する手洗い消毒等の衛生教育の徹底や、相談窓口の開設、医療機関との連携が拡大防止に有効であったと考えられる。

富山県衛生研究所細菌部
木全恵子 嶋 智子 清水美和子 磯部順子 綿引正則 倉田 毅
新川厚生センター
新村信久 泉 和子 松村美智代 野嶋直樹 齊藤尚仁 大江 浩

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