保育所で発生した腸管出血性大腸菌O157による集団感染事例−いわき市

(Vol.28 p 140-141:2007年5月号)

1.発生の状況
2006年10月15日(日)、市内の医療機関から同じ保育所に通う2人の幼児が下痢のため来院し、便検査をしたところ、腸管出血性大腸菌O157が検出されたとの通報が保健所にあり、これを受けて保健所では16日当該保育所の調査に入り、乳幼児等の健康調査、過去2週間分の検食の確保、施設内のふきとり検査、乳幼児・職員の発症者の検便検査を実施することとした。併せて施設職員、保護者へ二次感染予防対策を指導した。

2.保育所の概要
この保育所は0歳児〜5歳児までを預かっており、10クラス、定員300名と、比較的規模が大きく、さらに敷地内には学童保育施設をも併設していた。職員は保育士、調理員、看護師等総勢で40数名である。

施設は乳児と学童が別棟にあるほかは同じ棟にあり、調理室はひとつ、トイレは7カ所(別棟に1カ所)である。

3.経過と対応
16日調査に入った時点で、下痢等の症状を示していた幼児は1歳児のクラスを中心に複数おり、さらには一部の発症した幼児の保護者から体調不良の訴えがあったことから、保育所内およびその保護者家庭について疫学調査を実施した結果、O157による集団感染が強く疑われた。そこで感染拡大防止を図るため、保育所については、非発症者を含め乳幼児、学童、職員の便検査を実施しながら、一次休園を要請し、その間に施設内の感染防止対策を実施するよう指示し、また保護者家庭についても、発症した乳幼児の家族の便検査も実施するとともに、感染防止対策の指導と、発症した場合は医療機関を受診するよう要請した。さらに関係小学校へも情報提供を行い、感染防止の対応を要請した。

また23日には、1歳児について感染の広がりと登園の可否をみるため、2度目の便検査と施設や持ち物の消毒等の対策の実施状況を確認するため、1歳児の部屋やカバンのふきとりも実施した。

4.結 果
乳幼児・学童、職員および家族の便検査から、乳幼児・学童319人のうち16人、職員42人のうち1人、それに家族77人のうち12人、合計438人のうち29人からO157:H7が検出された(Vero毒素はVT1、VT2ともに検出)。

そのうち発症者はそれぞれ10人、0人、2人の合わせて12人であった。発症状況を整理すると、乳幼児・学童の1人が10月9日に発症し、翌10日に2人、11日に3人、12日に1人、15日に1人、16日に1人、19日に1人と、第一報のあった15日の前週の10日〜11日頃にピークがあった。その後1週間のうちに保育所においてまずは1歳児の間で、そして他のクラスに広がったと考えられた。一方、家族等の発症日は16日に1人と23日に1人と、乳幼児・学童の発症時期に比べ明らかに遅いことから、保育所で感染した乳幼児からそれぞれ家族へ感染していったと考えられた。

発症者の症状は比較的軽いものが多かったが、1人については血尿が見られ、入院治療5日と、重い症状であった。

一方、保存食品や厨房のふきとり検査、それに23日に実施したふきとり検査の結果は陰性であった。

感染経路については断定するには至らなかったが、これについては次の考察で言及する。

5.考 察
今回の集団感染事例では、保育所の日常の衛生管理や危機管理を含めた管理体制について、次のような問題点があった。

○おむつ交換を1歳児の部屋のカーペットを敷いた箇所で行っており、しかも使い捨て手袋を使用していなかった。
○交換した使用済みおむつの保管場所が、各乳幼児のカバンの中になっていた。
○トイレ後の手洗いがほとんどなされていなかった。
○室内の手ふきタオルが共用であった。
○乳幼児は登園時と保護者の迎えのときは1歳児の部屋に集まっていた。
○毎日の各乳幼児の健康状態のチェックが不十分で、下痢をしている乳幼児の数が増えてきた状態を把握できなかった。

一方、保護者については、子供が下痢気味であることはわかっていたが、元気なので入浴させてしまい感染したようだと話す保護者が多くいて、感染症の認識がなかったことが明らかであった。

以上のことから、保育所のような施設に対して、また一般市民に対して、これまで以上に感染症とその予防対策について知識の啓発が必要であることを痛感した。

いわき市保健所
齋藤富美 馬目淳子 正木恵美子 竹内順子 笹原京子 原田弘美

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