幼稚園で発生した腸管出血性大腸菌O26による集団感染事例−藤沢市

(Vol.28 p 141-142:2007年5月号)

2006年11月11日(土)、藤沢市内の医療機関から当市保健所に市内在住の5歳児(A)の腸管出血性大腸菌(EHEC)O26(VT1)による感染症発生届出があった。届出時、Aの通う幼稚園に下痢等の症状の園児がいるとの情報提供があり、Aの家族への対応とともに、Aの通う幼稚園への対応を開始した。幼稚園は10クラス220名の園児が在籍しており、AはZ組であった。給食は全クラス共通であるが、有症状者が2クラス(Z組・U組)に限局することから、このクラスの園児全員と職員全員の検便を行ったところ、園児59名中12名(Z組8名・U組4名)よりEHEC O26:H11(VT1)が検出され、職員16名からは検出されなかった。陽性者の家族の検便を行ったところ、2家族2名より本菌を検出した。他のクラスにおいても希望者を対象に検便を42検体行ったが、本菌は検出されなかった。よって幼稚園における患者・感染者は園児13名、家族2名、計15名であった。

本菌が検出された者にはそれぞれの主治医によって抗菌薬等の投与が行われ、菌の陰性化の確認は主に当市保健所で行った。保健所の菌陰性化確認の検便については、有症状者は2回連続の菌陰性、無症状者は1回の菌陰性を終了の目安とした。検便ののべ回数が1回だった者は2名、2回8名、3回1名、4回2名、6回1名、7回1名であった。1回目は陰性、2回目で陽性になった再排菌者は3名(20%)であった。

感染源については、患児たちの発症時期が11月8日〜12日とほぼ同時であったので、EHECの潜伏期間を考慮すると、単一曝露による感染が考えられたが、摂食・行動・患児の交友関係においては幼稚園以外の共通事項は認めらなかった。8日、9日に発症した患児5人のうち有症状で登園した患児があり、これらの患児のクラスは11日、12日発症の4名と同じZ組であったことから、二次感染も推察された。しかし8日、9日発症の患児達の感染源・経路については、疫学調査からは特定できなかった。患児の家族に2名の感染者(発症者1名、無症状保菌者1名)がいたが、それらの家族は、家族である患児以外の園児との接触はなく、また発症時期も考慮すると、患児からの二次感染と考えられた。パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析を実施した(図1)結果、No.1レーンのパターンにおいてバンド1本の相違が認められるものの、二次感染が疑われた菌株を含めパターンがほぼ一致していることから、同一の感染源であることが推察された。

幼稚園への対応として、集団感染が疑われた時点で即座に検便を含む幼稚園の調査や、園舎等の消毒等の指示を行った。また、登園する園児の健康チェックの強化と手洗いの励行を指導した。さらに、保護者に対する説明会を11月15日(水)と11月19日(日)の2回開催し、検便や病気に対する理解を求めた。

幼稚園児のEHEC O26(VT1)による感染症の届出に基づき、保健所は上述のとおり迅速に対応したことにより、11月16日以降新たな患者および感染者は発生せず、12月28日に最後の園児の菌陰性が確認され、冬休み明けの1月12日に保護者に対し終息宣言を通知し、2カ月間にわたる本事例は終息した。

藤沢市保健所 宮崎晃子 今井良美 佐藤 健
神奈川県衛生研究所 石原ともえ

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