中国(上海、北京)への修学旅行者における腸管出血性大腸菌O157感染事例−佐賀県

(Vol.28 p 142-143:2007年5月号)

2006(平成18)年9月19日管轄保健福祉事務所に、9月12日〜16日までの中国(上海、北京)への修学旅行からの帰国者122名中半数以上が、下痢、嘔吐の症状を呈しているとの連絡があり、直ちに感染症、食中毒の両面から情報を共有しながら調査を進めた。

調査の結果、122名中有症者は81名、無症状者41名であった。有症者81名の症状は、腹痛、下痢、嘔吐、発熱、頭痛であり、血便、溶血性尿毒症症候群はみられなかった(表1)。また、31名が医療機関を受診し、1名が入院した。症状の出現は出発翌日の13日から始まり、16日29名、17日19名と、半数以上が発症し、22日まで続いた(表2)。

帰国後、帰国者 122名とその家族66名の検便を行った。その結果、ノロウイルス3名、毒素原性大腸菌2名、腸管出血性大腸菌O157:H7(VT2)17名が検出された(表3)。O157、毒素原性大腸菌の混合感染者はいなかった。O157陽性者のうち2名は無症状であった。また、家族66名は全員陰性だった。

検出されたO157 17株について制限酵素Xba Iによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行った結果、17株中16株が同一の遺伝子パターンであった(図1)。遺伝子パターンが異なる1株No.11は、発症が22日の最終発症者由来株であり、投薬の有無も確認できていないことから詳細を検討中である。

ノロウイルスのシーケンス解析の結果は、GII/4型、GII/3型、GII/2型で、それぞれ異なっていた。毒素原性大腸菌の毒素は易熱性毒素(LT)であった。

本事例は、他の病原性大腸菌とノロウイルスによる胃腸炎を発症している者が混在しており、O157による症状の出現時期が特定できず、感染源、感染経路は不明であった。

また、重症者はすでに医療機関を受診しており、検便前に抗菌薬を投与されたケースもみられたことから、O157感染の有無を正確に把握することができなかった。

なお、O157の患者感染者の発生はクラスに偏りはなく(表1)、ホテルの同室者間での感染も認められなかった。

佐賀県衛生薬業センター
眞子純孝 岸川恭子 徳永日出乃 舩津丸貞行 藤原義行
唐津保健福祉事務所 公門 勉 天草 努 合田優子

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