2006年の麻疹流行状況−沖縄県

(Vol.28 p 145-147:2007年5月号)

本県では、感染症発生動向調査を強化し、麻疹に関する情報を迅速に収集・分析・提供・公開することにより麻疹発生の予防および蔓延を防止することを目的に、「沖縄県麻しん発生全数把握実施要領」を策定し、2003年1月より施行している(IASR 25: 64-66, 2004)。

この制度の導入後の麻疹確定症例は、2003年20例、2004年15例であったが、2005年には確定症例はなく、麻疹発生ゼロが達成された(IASR 27: 87-88, 2006)。ところが、2006年9〜12月に、再び県内で移入麻疹患者を感染源とした流行があったので報告する。

患者発生状況:全数把握制度による2006年の麻疹報告数は59例(疑い例を含む)で、そのうち定点からの報告が31例、定点以外からの報告が28例であった。このうち、病原体検査や血清学的検査により、麻疹が確定した症例が18例、否定された症例が40例、判定不可の症例が1例であった(図1)。

最初の確定症例は、第37週に本島北部地域で発生し、これを発端に同地域では第42週までに計12例発生した。また、これとは別に、第45週に東京都からの修学旅行の高校生で4例、第48週に埼玉県からの修学旅行の高校生で1例、第50週に県内の南部地域の高校生で1例発生した。

確定症例18例の年齢は、0〜4歳5例、5〜9歳2例、10〜14歳1例、15〜19歳7例、20〜29歳3例であった。ワクチン接種歴は、未接種13例、接種済み4例、不明1例であった。

臨床症状は、発熱(38.5〜40.5℃)と発疹が18例すべてで認められ、上気道炎7例(39%)、リンパ節の腫脹およびコプリック斑各5例(28%)であった。脳炎・肺炎・中耳炎等の合併症を併発した症例はなかった。また、入院したのは高校生5例で、入院期間は4〜8日であった(表1)。

病原体検出状況:病原体検査は、全数把握で報告された59例のうち検体提出があった57例で実施した。検査には、医療機関で採取された咽頭ぬぐい液と血液を用い、RT-PCRによるウイルス遺伝子検出、およびVero/hSLAM細胞によるウイルス分離を実施した。その結果、PCR陽性は18例、このうち麻疹ウイルスが分離されたのは16例であった(表2)。

PCRで陽性となった検体は、ダイレクトシークエンスにより塩基配列(NP遺伝子3'末端領域 385bp)を決定し、株間における相同性を比較した。その結果、18例のうち1例は塩基置換が1カ所認められたが、それ以外の17例の塩基配列はすべて100%一致した。

国立感染症研究所で分子系統樹解析を行った結果、18例すべてが遺伝子型D5に分類された。さらに、GenBankに登録されている株との相同性検索では、台湾、カンボジア、オーストラリアで分離された遺伝子型D5の株との相同性が99.22〜99.74%であった。

2006年分離株と2002年および2003年に本県で分離された遺伝子型D5の株との比較では、塩基配列の相同性は96.36%であった。また、分子系統樹解析の結果、異なるクラスターを形成していることが明らかになった(図2)。

感染経路:本島北部地域で第37週に発生した1例目の患者は、8月末に東京を旅行し、帰省後9日目の9月6日に発症した。この患者が発生するまで、本県の麻疹全数把握における確定症例の報告は1年以上なかった。麻疹の潜伏期間は、10〜12日であることから、本症例は旅行中に感染した可能性が強く示唆された。

同地域では、その後第42週までに11例の発生が報告された。保健所の疫学調査によると、この11例は、1例目の患者からの二次および三次感染者で、これら症例間の接触は、家庭や医療機関で起きていたことが明らかになった。

一方、第45週と第48週に東京都および埼玉県からの修学旅行の高校生で発生した計5例は、すべて本県到着後1〜2日以内に発症していたことから、旅行に来る以前には既に感染していたと考えられた。また、県内の南部で発生した散発例は、埼玉県からの修学旅行生が発病時に利用した県内のモノレールを同じ日に利用していたことから、同一車両内で感染した可能性が考えられた。

考察:麻疹全数把握では、患者情報が定点以外の医療機関からも迅速に把握できる。2006年に医療機関から報告された59例のうち、定点からは31例、定点以外からは28例であった。この結果から、本県では定点以外の医療機関においても麻疹に対する意識が高く、全数把握制度が浸透していることが示唆された。

麻疹が確定した症例は18例で、PCR検査ですべて陽性を示した。検査結果は、検体が搬入されてから24時間以内に保健所および県健康増進課へ報告された。PCR検査は、迅速で有効な検査法の一つと考えられるが、検体採取の時期や、検査に十分な検体量が採取されないなどの理由より、陰性になる可能性も考慮しておく必要がある。医療機関では、臨床診断による発生報告とともに、血清学的検査(IgMおよびIgG測定)も併せて実施しており、PCR陰性の場合、診断にはこれらの検査情報が重要と考えられた。

今回、本県で発生した麻疹流行は、関東地域からの移入感染例に端を発するものであった。しかし、麻疹全数把握制度による関係機関の迅速かつ効果的な対応により、流行の拡大を封じ込めることができた。このことから、本県の麻疹全数把握制度は感染拡大防止の上で十分に機能していることが示唆された。

今後も移入症例、あるいは輸入症例が流行の発端となる可能性は考えられ、この対策の一つとして本県における麻疹全数把握制度は有効な方法であり、継続する必要があると思われた。

沖縄県衛生環境研究所 平良勝也 仁平 稔 岡野 祥 糸数清正 大野 惇
沖縄県福祉保健部健康増進課 田盛広三 新垣美智子 譜久山民子
沖縄県北部保健所 長浜久美子 比嘉啓子 糸数 公
沖縄県中部保健所 野村直哉 神山安澄 新垣志乃 国吉秀樹
沖縄県南部保健所 古謝由紀子 宮川桂子
沖縄県中央保健所 崎濱壽賀子 平良ちあき 島袋全哲
沖縄県はしか"0"プロジェクト委員会 知念正雄

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