ノロウイルス感染による介護老人保健施設での集団発生事例−青森県

(Vol.28 p 149-150:2007年5月号)

2007年1月に介護老人保健施設でノロウイルス(NV)による集団感染事例が発生したので、その概要を報告する。

弘前保健所に1月9日、管内の介護老人保健施設(入所者99名、職員65名、リハビリテーション通所者80〜90名)から、施設内において嘔吐・下痢等の症状を呈する入所者が増えているという連絡が入った。保健所は直ちに食中毒および感染症を考慮して調査を行った。入所者の発症状況は1月6日に1名、7日2名の発症者であったが、8日には18名、9日10名とピークが見られた。また、その後の調査により、職員やリハビリテーション通所者も発症していることが判明した。11日以後は1日あたり5名前後の発症者があり、最終的に発症者は17日までに105名となった(図1)。

原因究明のための検査材料は、発症者10名(入所者9名、職員1名)、調理従事者15名(うち発症者2名)の糞便計25検体、厨房を中心としたふきとり6検体と、1月6日および7日の検食2検体であった。検食は2検体とも朝、昼、夕をプールして検査した。

NVの検出は、糞便はRT-PCR法と電子顕微鏡法により、ふきとりと検食はリアルタイムPCR法により行った。その結果、入所者および職員の発症者では全員から、調理従事者では15名中発症者2名を含む3名からNV genogroup II(NV GII)が検出された(表1)。ふきとりでは、盛り付け用調理台から実測値で平均256コピー、1月7日の検食からは実測値で平均27コピーのNV GII遺伝子が検出された(表2)。

NV GIIが検出されたふきとりおよび検食について、Nested PCRを行ったところ、盛り付け用調理台のふき取りからはPCR産物が得られたが、検食からは得られなかった。遺伝子解析は、ダイレクトシーケンス法により発症者由来8検体とふきとりの1検体について行い、8検体はすべてNV GII/4型類似株であり、ふきとりの1検体はNV GII/3型類似株であった。

調査の結果、保健所では、施設入所者においては排泄後の手洗いが不十分だったこと、職員が行った6日および7日発症者の吐物の処理において、手袋は着用していたが、塩素系消毒薬を使用しておらず、処理においても不完全であったことから、施設内においてNVが広い範囲に、しかも濃厚に拡散し、8日以降の多数の発症者の発生に繋がったものと推察した。また、施設の食事を喫食していない職員の発症が確認されたことなどから、食品を介した発症ではなく、接触感染による発症と判断した。

遺伝子解析については、発症者がNV GII/4型類似株で、盛り付け用調理台がNV GII/3型類似株であり、遺伝子型の一致がみられなかった。今シーズンは、全国の集団発生において検出されたNV遺伝子型はほとんどがGII/4型であり、盛り付け用調理台が、どのような経路により汚染されたかは不明である。現在、本事例以外の集団発生および散発事例についても解析を進めている。

青森県環境保健センター微生物部
熊谷邦彦 石川和子 三上稔之 阿部幸一
中南地域県民局地域健康福祉部保健総室(弘前保健所)
高橋優子 成田むつ子 安田準一 田鎖良樹

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る