北海道はしかゼロ作戦の成果

(Vol.28 p 252-253:2007年9月号)

北海道はしかゼロ作戦の成果
2001(平成13)年5月26日に開かれた北海道小児科医会総会において、5年以内に北海道から麻疹の発生を無くしようとの決議が採択された。これを受けて「北海道はしかゼロ作戦」が宣言された(IASR 25: 66-67, 2004)。この作戦は小児期の麻しんワクチン接種率95%以上を主目標においた。

1.行政との協力
北海道内の各市町村の麻しんワクチン接種状況を把握するために、2002(平成14)年3月5日北海道保健福祉部は行政の行う1歳6カ月、3歳児健診時にワクチン既往を問診して報告するよう求めた。この調査は2006(平成18)年度まで続けられ、さらに2年間延長された。札幌市は2003(平成15)年6月から、行政の行う10カ月健診を受診した乳児の保護者に「はしかワクチンシール」を手渡し、自宅のカレンダーの児の誕生日にこれを貼付するよう要請した。北海道、北海道小児科医会は2004(平成16)年7月から同様のシールを増刷して北海道内の各保健所、各市町村の関係部局に配布した。2002(平成14)年3月文部科学省は各都道府県教育委員会あてに、小学校就学前健診に児の予防接種歴を問い、未接種者には接種を勧奨するようにとの通達(13文科ス第485)を出した。これを受けて札幌市では2003(平成15)年秋からはじまる小学校入学前健診の問診表に予防接種の既往欄が付け加えられた。北海道は2004(平成16)年7月に各市町村の教育局あてに通達を出して予防接種既往欄を設けること、とくに麻しんワクチン未接種者への接種を促した。厚生労働省は2006(平成18)年4月から行われる麻疹、風疹の定期予防接種に生麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)を用い、接種時期を生後12カ月〜24カ月を第1期、小学校入学前1年を第2期とした。

2.広報活動
2001(平成13)年10月から年2回「はしかゼロをめざして−ワクチン接種をすすめよう−」と題する講演会を、2003(平成15)年11月から年2回「ワクチン接種をすすめよう−子ども達に健康な未来を−」と題する講演会を札幌市で開催した。

3.「北海道はしかゼロ作戦」の成果と麻疹流行
北海道保健福祉部がまとめた2002〜2005(平成14〜17)年度の麻しんワクチンの接種率は1歳6カ月時83.4〜90.5%、3歳時93.6〜96.2%であった(表1)。北海道の小児科定点からの麻疹患者報告数は2001年3,263、2002年294、2003年215、2004年44、2005年5であった(表2)。3歳児健診の結果をみると、2004(平成16)年度以後接種率が95%を超えたことになり、定点からの麻疹発症報告も減少して「北海道はしかゼロ作戦」も成功したかに思われた。

2006(平成18)年11月頃からの首都圏での成人麻疹の流行の余波を受けて、12月初め東京に出張した31歳男性が札幌市で麻疹を発症した。この症例に続いて成人4例、小児5例合計10例の二次、三次感染が札幌市でおこった。また2007(平成19)年5月7日東京への旅行から帰った30歳女性が江別市で、5月14日と5月22日に東京から旅行中の29歳男性と19歳女性が札幌市で麻疹を発症した。これらに続いて札幌圏では9例の麻疹確定例が報告された。発症年齢は4歳女児、14歳男児以外は17〜46歳に分布していた。この9例中6例がワクチン接種歴なし、1例が不明であった。同じ頃北海道では室蘭市を中心に237例の麻疹流行が報告され、8月には釧路地方で小流行が報告されている。この室蘭地区の流行は小児期の麻しんワクチン未接種者が44.7%で最も多く、接種済が30.4%、不明が24.9%であった。そして流行の主体は高校生、大学生、若年成人であった。

首都圏の麻疹流行およびその後の地方への波及をうけて、1.麻疹症例の全数報告、2.一定年齢に達した人へのワクチン一斉接種(catch up campaign)、3.1、2期接種の徹底、の3点を全国規模で行う必要性がある。WHOは2012年までに麻疹のeliminationを宣言した。わが国は上記3点を速やかに開始して「麻疹輸出国」の汚名を返上しなければならない。

札幌市立大学 富樫武弘

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