大阪府における麻しんの流行状況

(Vol.28 p 254-255:2007年9月号)

1.大阪府の感染症発生動向調査事業
大阪府では、定点把握疾患については、政令市の大阪市と堺市、中核市の東大阪市、高槻市と情報共有し、共同で解析を行っている。府内には200カ所の小児科定点、15カ所の基幹定点があり、保健所でシステムに入力され、府および各政令市の感染症情報センターで確認されたデータは中央感染症情報センターに報告されると同時に、大阪府感染症情報センターで、府内11ブロックに分けたブロックごと患者発生数、年齢分布としてまとめられている。府と4市で構成する感染症発生動向調査委員会の解析評価小委員会では、毎週水曜日に委員会を開催し、このデータをもとに府内の感染症発生動向解析、週報の作成を行い、関係機関へ感染症情報として還元している。

麻しんは感染症法では5類定点把握疾患であり、患者の性別および年齢のみが報告され、詳しい情報は得られない。そこで2006(平成18)年第15週以降、麻しん報告については各医療機関、保健所の協力を得て、二次的な聞き取り調査を開始した。また定点以外の医療機関からも麻しん情報を可能な限り収集している。堺市では2000(平成12)年の流行を契機に、小児科医会、衛生研究所が中心となり、すでに麻しん全数把握サーベイランスが行われている(IASR 28: 147-149, 2007)。

2.大阪府の麻しん発生状況
大阪府では2000(平成12)年と2001(平成13)年に麻しんの流行が認められた(図1)。このときの患者数は、小児科定点から2000(平成12)年4,077例、2001(平成13)年2,102例、基幹定点からの成人麻しんはそれぞれ9例、34例であった。その後府内の患者数は年々減少し、2006(平成18)年には麻しんは24例、成人麻しんは2例で過去最低となった。また定点以外の医療機関から得た麻しん発生情報も2例のみで、全数報告を施行している堺市からの報告はなかった。また事例は散発例のみで、二次感染が明らかなものは無かった。しかし2007(平成19)年は第8週に、初発患者からワクチン未接種の家族2人と、病院で接触した乳児1人の計3人に二次感染したと考えられる事例が確認された。本事例からその後の感染拡大はなかったものの、関東地方の流行の影響もあり第16週頃から患者数が増加し、第19週には専門学校において30人をこえる集団感染も報告された。定点以外からの患者情報も加えると第1週以降府内では少なくとも632例の報告があり、第22週をピークに減少傾向にある(図2)。

2000(平成12)年の流行の主体は乳幼児であり、小児科定点からの麻しん報告の70%以上が5歳未満であった。一方、本(2007)年は小児科定点からの報告のうち5歳未満が占める割合は46%にとどまり、成人麻しんの報告は2000(平成12)年に比較して大きく増加するなど、年齢の高い患者報告が目立った。

3.まとめ
前回の流行の後、1歳早期のワクチン接種勧奨等、関係機関の努力により患者数は減少していた。昨年から麻しん風しんワクチンの定期2回接種も開始され、さらなる患者数の減少が期待されていたが、規模は2000(平成12)年に比較すると小さいものの、本(2007)年は大阪府でも流行が認められた。

流行がある程度コントロールされている一方、ワクチン既接種者の成人が罹患する例も稀ではない現在、小児科を中心とした定点報告だけでは散発例や小地域内での集団発生などを把握することは困難である。今回の流行を受けて、堺市以外にも高槻市や門真市など市医師会単位で全数調査が開始されたところもある。大阪市、東大阪市では患者が発生した際に保健所が積極的疫学的調査を行い、ワクチン接種勧奨を含めた対応を行うなど、実質的な全数調査を今年度から行っている。また府全体の取り組みとしては、大阪小児科医会の麻しん全数調査が開始され、各市・府情報センターの協力のもと麻しん発生情報をホームページで公開するという試みもスタートした。国の指針も、ワクチン2回接種対象者の拡大や全数報告の導入が検討されている。

麻しんは非常に感染力が強く重症化する例も多いため、今後はこれらの対策や対応の強化により患者発生が撲滅できるものと強く期待される。

大阪府感染症発生動向調査解析評価小委員会
大阪府立公衆衛生研究所 宮川広実 田口真澄 高橋和郎
あさいこどもクリニック 浅井定三郎
日生病院 池原千衣子
大阪府健康福祉部地域保健福祉室健康づくり感染症課 佐藤 功 森山和郎
大阪府立呼吸器アレルギー医療センター 笹部哲生
大阪市立総合医療センター 塩見正司
堺市衛生研究所 田中智之
東野医院 東野博彦
東大阪市保健所 松本小百合
大阪市保健所 宮村鈴子 吉田英樹
大阪市立環境科学研究所 村上 司
森山眼科医院 森山穂積
中央労働災害防止協会大阪労働衛生総合センター 杉田隆博

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