麻しん排除計画案と今後の麻しん対策について

(Vol.28 p 260-261:2007年9月号)

はじめに
麻しんは近年、周期的な流行はみられたものの、患者数は減少傾向を示していた。しかし、2007年に10代および20代を中心とした年齢層で流行が生じ、多数の学校が休校措置を行うなど、社会的な混乱がみられた。

WHO西太平洋地域事務局(WPRO)は、2012年までにアジア西太平洋地域から麻しんを排除する目標を定めており(本号23ページ)、わが国においても麻しんを排除することが必要であることから、予防接種に関する検討会において、2012年までの麻しん排除とその後の維持を目標にした麻しん排除計画案が策定された。

麻しん排除計画案の主な内容
1.定期接種としての接種の積極的勧奨
(1)麻しんワクチン接種1回世代への2回目の接種機会の付与
今まで麻しんワクチンを1回しか受けていない世代に対して、補足的接種として2回目の予防接種を受ける機会を設けることとする。具体的には、中学1年生と高校3年生に相当する年齢の者に対して接種を行い、これを5年間行う。使用するワクチンは麻しん対策と同時に風しん対策も行うため、原則としてMRワクチンを用いる。

(2)定期接種を行う市区町村の取り組み
厚生労働省は、定期接種の実施主体である市区町村に対して以下の取り組みを依頼する。
 1)自治体の広報等、不特定多数への周知のみでなく、定期予防接種対象者に対する個別通知を含めた確実な周知
 2)1歳6か月健診および就学時健診における未接種児の把握と接種勧奨
 3)各定期接種対象期間の中間時におけるワクチン接種の有無の把握と未接種者に対する再度の接種勧奨

(3)予防接種率を高めるための文部科学省への協力依頼
厚生労働省から文部科学省に対し、以下の取り組みを依頼する。
 1)就学時健康診断における、罹患歴および予防接種歴の確認、定期予防接種を受ける必要のある者に対する指導および指導後の結果の確認
 2)新たに定期予防接種の対象となる児童生徒に対して、定期健康診断における、罹患歴および予防接種歴の確認、定期予防接種の対象となる場合の指導および指導後の結果の確認

2.任意接種としての接種の推奨
勧奨されている予防接種を受けていない未罹患者に対する接種を促すため、医療従事者、学校の職員、学生、福祉施設等の職員、医療機関受診者に対して、関係機関を通して予防接種の情報提供および再度の予防接種歴の確認を行う。

3.評価体制の確立
(1)麻しんおよび風しん発生数の把握
麻しんおよび風しんの発生状況について、現行の定点報告から全数報告に変更する。また、麻しんを臨床診断した医師が24時間以内を目標に報告を行うことおよび、臨床診断例についてもできるだけ検査室診断をし、その結果についても保健所に報告することとする。また、届出に併せて麻しん診断例について、予防接種歴も報告するよう依頼する。

(2)予防接種率の把握
各地域における予防接種率を把握するため、保健所長からその率につき、都道府県を通して厚生労働省に情報提供を行うようにする。また、各自治体が、学校の設置者および学校が把握する幼児、児童、生徒の予防接種率に関する情報を把握できるようにする。

4.麻しん発生時の迅速な対応
麻しん患者が発生した場合、感染症法第15条に基づき、実施主体である都道府県、政令市および特別区が迅速に麻しん発生の状況、動向および原因の調査が行えるよう、国立感染症研究所が自治体向けの麻しん流行時に対応できる手引きを作成し、要請された人員派遣に応えられる人材の養成を行う。

5.実施体制の確立
(1)国の麻しん対策委員会(National measles elimination committee)の設置と役割
厚生労働省は、感染症の専門家、医療関係者、保護者、都道府県の担当者、ワクチン製造業者および学校関係者からなる「麻しん対策委員会(仮称)」を設置し、麻しん排除計画の実施状況について毎年評価・公表し、計画の見直しについて必要な提言を行う。

(2)地方自治体の地方麻しん対策会議等の設置
各都道府県が、国の計画を基本として、各地域における麻しんの排除に取り組み、定期的に、学校の協力を得ながら、麻しんの発生動向、定期接種対象者の接種率および重篤な副反応報告等を把握・公表し、地域における計画の進捗状況を評価し、必要な対応を行うようにする。また、麻しん排除に向けては、行政だけでなく、感染症の専門家、医療関係者、保護者、学校関係者等と協働し、これら関係者からなる対策会議の開催等、地域における関係者との連携・協力体制を整備する。

以上が予防接種に関する検討会で策定された麻しん排除計画案の主な内容である。厚生労働省は今後、この排除計画案を基に麻しん対策を講じていくこととなる。

厚生労働省健康局結核感染症課

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