新規HIV/AIDS診断症例におけるpol 遺伝子領域から判定したサブタイプの2003〜2007年にかけての変遷について表1にまとめた 1)。表に示すように、75〜89.9%と頻度の広がりがあるものの、いずれの年もサブタイプBの頻度が最も高く、続いてCRF01_AEが6.1〜13.9%の頻度で観察されている。その他アフリカで流行しているサブタイプAとCRF02_AG、アフリカ、インドそして中国に流行域をもつサブタイプCがいずれも1%前後の比率で観察されている。表2にサブタイプごとのプロファイルを示したが、本邦において流行しているサブタイプBの感染集団は日本国籍(93.3%)、男性(98.0%)そしてMSM(78.2%)である。CRF01_AEでも感染集団の主を占めているのは日本国籍(73.7%)の男性(65.5%)であるが、こちらの主要な感染経路はMSMではなく異性間性的接触(73.7%)である。またCRF01_AEでは女性(34.5%)と外国籍(25.7%)の比率がサブタイプBより有意に高く、二つのウイルス感染集団が異なっていることが明確にわかる。サブタイプBあるいはCRF01_AE以外のサブタイプになると、外国籍(55.9%)、女性(50.0%)そして異性間(80.9%)が感染集団の中心になっている。以上サブタイプから見ると、現在日本には大きく三つの感染集団、(1)「サブタイプB」+「日本人」+「MSM」の集団、(2)「CRF01_AE」+「日本人」+「異性間の性的接触」の集団、(3)「non-B」+「外国籍」+「異性間性的接触」に分類できると考えられる。これらの三つの集団は完全に独立しているわけではなく、たとえばMSMのCRF01_AEのように集団間にまたがる症例もあり、今後の推移が気になるところである。
今回のサンプリングではエイズ動向委員会に報告されたHIV/AIDS集団の30〜40%の捕捉率であり、同報告と比較すると、「女性」と「外国人」の比率が有意に低い。従って、CRF01_AEやそれ以外のnon-Bサブタイプに関してはその動向を低く見積もっている可能性が考えられる。近年、大都市近郊ではCRF01_AEの観察頻度が高いという報告もされており 2)、調査網の充実と片寄りの無いサンプル収集が調査を進めていく上で大きな課題である。また、今回のデータはHIVのpol 領域だけであるので、gag とenv も含めたより詳細な解析が必要である。さらに、近年東海地域においてHIV-2感染者が5名同定されており、そのうちの2名は外国渡航歴の無い日本人女性であり、国内における感染が強く疑われている 3, 4) 。このように国内におけるHIV感染症はますます多様化してきており、効果的な予防策の実現と検査体制の充実のためには精度の高い、かつ緻密な疫学調査が求められる。
謝辞:本稿で紹介した調査は厚生労働省エイズ対策研究事業「薬剤耐性HIVの動向把握のための調査体制確立及びその対策に関する研究」班により行われた。研究班員ならびに調査に協力いただいた医療機関の先生方、そして患者の方々にこの場をかりて御礼申し上げる。
参考文献
1)Hattori, J., et al ., The 16th Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections, 2009, Montreal, Canada
2)長谷彩希, et al ., 第22回日本エイズ学会, 2008, 大阪
3)伊部史朗, et al ., 第83回日本感染症学会総会, 2009, 東京
4)健疾発第 0203001号: 医療機関及び保健所に対するHIV-2感染症例の周知について
国立病院機構名古屋医療センター
国立感染症研究所エイズ研究センター 杉浦 亙