2006〜2009年に静岡県で発生したカンピロバクター食中毒事件およびその1事例
(Vol. 31 p. 7-9: 2010年1月号)

2006〜2009年に静岡県内で発生した食中毒事件は、2006年26件、2007年23件、2008年28件、2009年(11月30日現在)21件であり、そのうちカンピロバクターによるものは、2006年3件(11.5%)、2007年4件(17.4%)、2008年6件(21.4%)、2009年7件(33.3%)、合計20件あった(表1)。検出されている菌のほとんどはCampylobacter jejuni であり、平均潜伏時間は63時間であった。発生原因は、食肉等の生食のほか、食品の加熱不足や汚染された原材料からの二次汚染も多く見られた。

このうち、2008年3月に浜松市内の飲食店において発生した事件は、患者数51人にのぼる比較的規模の大きな事例であったので、その概要を報告する。

1.事件の概要
発生の探知:2008年4月3〜4日にかけて市内および近郊の医師から、「当該施設で提供されたバイキング料理を喫食し、3月31日から下痢、発熱等の食中毒症状を呈しているものを診察した」旨の届出があった。

発生年月日:2008年3月29日
患者数:17グループ51人(男性32人、女性19人)
摂食者数:169人
発病率:30.2%
原因施設:飲食店営業(食堂)
原因物質Campylobacter jejuni
平均潜伏時間:50.4時間
主要症状:下痢(98.0%)、腹痛(84.3%)、発熱(70.6%)、頭痛(52.9%)、悪寒(52.9%)
原因食品:鶏レバー刺し、牛ユッケ、牛のたたき、地鶏のたたき等生食提供の食肉
施設に対する措置:4月5〜10日(6日間)の営業禁止処分

2.原因食品およびその汚染経路
原因食品の特定:17グループにおける共通喫食は、当該施設で提供された焼肉バイキング料理(3月28〜30日)のみであり、このバイキングの追加メニューとして鶏レバー刺し、牛ユッケ、牛のたたき、地鶏のたたき等が提供されており、有症者はこれらの食肉を生で摂食している。また、喫食調査の統計処理から、鶏レバー刺し、牛ユッケ、牛のたたきの3品がχ2 検定にて1%危険率で有意差あり、オッズ比5以上で危険・信頼性高いとなった。以上のことから、本事件の原因食品は、3月28〜30日の3日間当該施設で提供された焼肉バイキング料理オーダーメニューの鶏レバー刺し、牛ユッケ、牛のたたき、地鶏のたたき等生食提供の食肉を原因食品と推定した。

生食用食肉の仕入れ状況等:当該施設では、生食用の食肉は市内の業者1社のみから仕入れている。これらの食肉の納品伝票には「商品に(生食用)の表示のない食肉はすべて加熱調理が必要です。」の表示があるが、当該施設の仕入れ品に(生食用)の表示がされたものはなかった。また、3月28日に提供された鶏むね肉および鶏肝臓は、仕入れてから4〜6日が経過していた。なお、調理作業では、生食用食肉類と加熱用食肉類は別の冷蔵庫に保管されており、調理場所も別となっていた。

3.食品取り扱い施設および従業員
食品取り扱い施設の衛生状況:調理室内に手洗い設備はあるが、手拭いがなく、通常はおしぼりで拭く程度で、手洗いはあまりされている状態ではなかった。食肉の取り扱いについては、生食用と加熱用で保管冷蔵庫および調理場所は別となっていたが、汚れが残るなど洗浄消毒が十分行われておらず、さらに食肉の種類ごとの取り扱いの区別はしていなかった。また、洗浄場所と食肉のカット場所が近接しており、冷蔵庫内の保管についても、野菜と食肉類が区別して保管されていないなどの不備が見受けられ、二次汚染が起こり得る状況であった。

調理従事者4名の検便を実施したところ、食中毒菌はすべて陰性であった。なお、事件前の健康状態は良好であった。ただし、アルバイト従業員の検便の実施はなかった。

4.病因物質検査状況
浜松市保健環境研究所では、患者2グループ9名、調理従事者4名、施設のふきとり10検体が搬入され、患者9名からC. jejuni が検出された。その他、静岡県内の保健所において患者2名、患者が受診した医療機関で1名からC. jejuni が検出され、計12名からC. jejuni が検出された。なお、調理従事者4名、施設のふきとり10検体からは食中毒菌は検出されなかった。

5.考 察
当研究所において2007年5月〜11月にかけて実施したカンピロバクター汚染実態調査によると、浜松市内の食肉処理業2施設、食肉販売業7施設、および焼肉店2施設、計11施設から収去した食肉等145検体のうち、16検体(11.0%)からカンピロバクター属菌が検出されている(表2)。なかでも鶏内臓の汚染率が高く、34.5%という結果であった。また、食肉の部位別調査では、鶏肝臓31.6%、鶏砂肝40.0%と、高率な汚染実態が明らかになった(表3)。さらに、2000〜2001年度実施の厚生科学研究特別研究事業「鶏肉に起因するカンピロバクター食中毒の予防に関する調査研究」によると、市販の食鳥肉の汚染率は77.7%にのぼるという報告がされている。以上のことから、本事件の原因菌であるカンピロバクターは、食肉、特に鶏肉および鶏内臓に付着している可能性が非常に高い食中毒原因菌であるといえる。当該施設の調理従事者はこの知識が不足していたことから鶏レバー刺し等食肉の生食提供を行い、その結果、今回の食中毒事件を引き起こしたと考えられる。また、当該施設の平均来客数は、平日で約150人、土日では約300人ということであり、今回の原因食品を含むメニューが週末にかけて提供されたことから、患者数が多くなったと思われる。

本事例は、生食提供の食肉にて高率にカンピロバクター食中毒を発症した事例であり、食肉等(鶏肉、鶏内臓、および牛肉)の生食と、これら食肉に付着している菌による二次汚染の危険性について広く情報提供する必要があると考える。また、家庭内食中毒等、小規模散発事例も多数見られることから、食品提供業者のみならず一般消費者への注意啓発も重要である。

浜松市保健環境研究所 土屋祐司 鈴木寿枝 加藤和子 山本安子
浜松市保健所 今仁須美子

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