保健所は6月8日にE社の施設立ち入り調査を行い、「生食用」等合鴨肉5種類の収去と施設のふきとり検査6カ所とチラー水の菌検査を実施した。また、出荷先リストの提出を求め、出荷先での他の有症苦情等の有無を行政確認した。E社は、2003年頃から特定の飲食店に「生食用」合鴨肉を提供していたが、消費者への小売りは行っておらず、他の苦情はなかった。E社の生産から販売までの処理工程を図1に示した。C. jejuni はふきとり検査等からは分離されなかったが、すべての収去肉から分離された。そこで、散発事例として処理されがちなカンピロバクター食中毒の疫学解析を実施するため、飲食店の所在地・患者居住地の東京都、大津市、京都市、高槻市、大阪府から菌株分与を受け、E社の収去肉由来株との比較を行った(表2)。
患者等便由来の20株は、Lior血清型(衛生微生物技術協議会カンピロバクター・リファレンスセンターで調製した型別血清)はすべてLIO22で、Pennerの血清型別(デンカ生研)ではいずれも型別不能であった。パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)の遺伝子解析では、制限酵素Sma Iの切断パターンはC店の患者1株(No.20)を除く19株が一致し、また、一部の株で実施をしたKpn Iの切断パターンもSma Iと同様の傾向を示した。
一方、合鴨肉から分離された17株のPFGE解析は、Sma Iの切断パターンでは、バンドが認められないパターンを含めて9種類に分類された。患者由来株と一致したのは、菌株No.20と同じ切断パターンを示したB店ハート由来株(No.23)のみで、それ以外は患者株と同一パターンを示す株を見出すことができなかった。その上、合鴨肉由来17株中、今回調べた疫学マーカーすべてが一致したのは4株(No.22、25、31、32)のみで、食肉由来株の多様性を確認する結果となった。
今回の複数の食中毒事件では患者株の血清型およびPFGEパターンがほぼ一致したが、(1)真空パックでの流通段階以降の状態について詳細な確認ができなかったこと、(2)消費者への最終提供までに飲食店が介在し、飲食店での取り扱い不備等がなかったかの証明が困難であったことなどから、E社の生食用合鴨肉を食品衛生法第6条第3号等の違反食品として行政処分を行うには至らなかった。しかし、E社へは、「生食用」合鴨肉を直ちに販売自粛するよう文書指導し、施設洗浄消毒実施のため1日間の食鳥処理施設の営業自粛をさせるとともに、衛生教育を行い、営業者から今後、「生食用」合鴨肉は販売しないとの顛末書を徴取した。
食品安全委員会は2009年6月にカンピロバクターの健康リスク評価報告書をまとめ、生食の食中毒リスクの高さを注意喚起しているが、いまだに生食を求める消費者は多い。また、インターネットなどでどこからでも誰でも気軽に様々な商品を手に入れることができる社会では、食中毒発生は広域化する危険性がある。加えて、今後、散発(孤発)事例が増え、その探知や原因追及がますます困難になっていくことも予想される。特に、食肉等を汚染している可能性が高いカンピロバクター食中毒の疫学解析ではその傾向が強くなるのではないかと考えられる。本食中毒に対する注意深い監視と広域的な相互協力体制の確立が重要であり、広域連携作業の迅速化が今後の課題となる。
最後に、今回の菌株の入手や疫学解析にご配慮・ご教示いただいた、東京都健康安全研究センター、大津市保健所、京都市衛生公害研究所、高槻市保健所、大阪府立公衆衛生研究所の関係各位に深謝申し上げる。
京都府保健環境研究所細菌・ウイルス課 中嶋智子 浅井紀夫 柳瀬杉夫
京都府山城北保健所 飯田貴久 足立有佳里 大石剛史 三谷亜里子 岡本裕行 谷尾桂子 和田行雄
京都府生活衛生課 三影博司