血清型別:型別に供された菌株は総計4,031株で、その内訳は、散発下痢症由来2,504株、集団食中毒304事例由来の1,527株である。
散発下痢症由来株の主要血清型を表に示した。供試した2,504株中1,610株(64.3%)が単独血清型に型別された。検出頻度の高いものは、LIO4で524株(20.9%)であった。次いで、LIO10が122株(4.9%)、LIO11が115株(4.6%)、LIO28が106株(4.2%)であった。同時に複数の抗血清に反応したものは67株(2.7%)、型別不能は827株(33%)であった。
一方、集団食中毒事例の患者由来株についてみると、1集団事例において1種類の血清型菌のみが検出された事例は241事例(患者由来株2株以上を対象)中115事例(47.7%)であった。患者からの分離頻度が高い血清型は、LIO4、LIO36、LIO11、LIO7、LIO28等であり、散発患者由来株と類似した傾向を示した。本調査期間中に集計された集団食中毒事例304事例中55事例(18.1%)で患者由来株の血清型が型別不能であった。
薬剤感受性試験:供試株は、散発下痢症由来C. jejuni 2,366株、C. coli 75株、供試薬剤はキノロン剤としてノルフロキサシン(NFLX)、オフロキサシン(OFLX)、シプロフロキサシン(CPFX)、ナリジクス酸(NA)の4種に加え、テトラサイクリン(TC)およびエリスロマイシン(EM)の6剤である。方法は菌株をBHIブイヨンで微好気培養し、その培養液をミュラーヒントン寒天(OXOID)に塗抹後、センシディスク(BBL)を置き2日間微好気培養して阻止円を測定するKB法によった。
その結果、C. jejuni では、1,125株(47.5%)が6剤すべてに感受性であった。供試したフルオロキノロン系薬剤3剤(NFLX・OFLX・CPFX)すべてに耐性を示すものは788株(33.3%)、カンピロバクター下痢症治療の第一選択薬であるEMに対する耐性株は17株(0.7 %)であった。TCについては833株(35.2%)が耐性を示した。今回供試した6薬剤に対するC. jejuni の耐性状況は、前回報告した結果とほぼ同程度であった。また、C. coli では29株(38.7%)が感受性、フルオロキノロン系薬剤3剤耐性が47株(62.7%)、EM耐性が16株(21.3%)、TC耐性が56株(74.7%)であった。C. jejuni に比較しC. coli の方がフルオロキノロン系薬剤およびEMに対し高い耐性を示した。
今後の検討課題:本レファレンスセンターにおいて実施している血清型別法は、Lior法に基づく型別方法である。本法は、C. jejuni の菌体表面に存在する易熱性抗原(HL抗原:heat labile antigen)、すなわち、鞭毛(H)抗原や夾膜(K)様抗原等をスライド凝集反応により型別する手法で、凝集反応そのものは非常に簡便である。しかし、型別用血清は市販されておらず、支部センターで分担して作製しているため、支部センターの負担が大きい。
一方、Penner法は耐熱性抗原(HS抗原:heat stable antigen)を標的抗原としてLOS(lipooligosaccharide)またはPS(polysaccharide)を受身血球凝集反応によって血清型別を行う方法である。市販血清(デンカ生研)の入手が1993年から可能となったが、非常に高価であるとともに、手技が煩雑であるという問題がある。
近年、カンピロバクター食中毒の発生が増加し、行政から迅速に血清型別成績を求められることも多く、支部センターに菌株を送付して型別する現行法には限界もある。また、各地研等が、Lior法とPenner法のそれぞれの方法で型別した場合には、検査結果を相互に比較できないという不都合も生じる。このような現状を鑑み、カンピロバクター・レファレンスグループでは、これら二法の比較検討を現在行っている。
衛生微生物技術協議会カンピロバクター・レファレンスグループ
秋田県保健環境センター
東京都健康安全研究センター
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