家畜由来カンピロバクターにおける薬剤耐性の動向
(Vol. 31 p. 17-18: 2010年1月号)

家畜の腸管に分布するカンピロバクターは、畜産物を介して食中毒の原因となることが知られている。家畜における薬剤耐性に関する全国的な実態調査(JVARM: Japanese Veterinary Antimicrobial Resistance Monitoring System)が平成11(1999)年度にスタートして以来、国内で飼育されている牛、豚および鶏(採卵鶏および肉用鶏)由来Campylobacter jejuni/coli における薬剤耐性の分布が明らかにされてきた。食中毒の原因菌であるC. jejuni/coli は、家畜に対する起病性がないため、様々な細菌性疾病の治療や家畜の栄養成分の利用促進を目的に使用されている抗菌薬が、家畜の腸管内のカンピロバクターの薬剤耐性の分布に影響していると考えられている。

全国調査で分離された菌種は、牛および鶏からはC. jejuni が、豚からはC. coli が主となる傾向がある。この傾向は、調査を開始した1999〜2008年まで変わっていない。分離されたC. jejuni のPennerの血清型は、1999〜2000年では、O:1、O:2、O:4およびO:8群4) 、2001〜2006年では、O:2、O:4、O:8およびO:37群が多く認められた3) 。この間に、牛由来株ではO:4群、鶏由来株ではO:1群の比率が減少した3) 。このような変動は見られるものの、1999〜2006年を通じて、牛由来株ではO:2およびO:4群、鶏由来株ではO:2群の比率が高かった3,4) 。

薬剤感受性では、全体的には、オキシテトラサイクリン(OTC)およびジヒドロストレプトマイシン(DSM)に対する耐性率が高い。この傾向は、カンピロバクターに限らず、大腸菌、腸球菌およびサルモネラなどの家畜由来株で共通に認められる。

菌種別では、C. jejuni における耐性率は、C. coli に比べて低率である。DSM、エリスロマイシン(EM)、OTCおよびフルオロキノロン(FQ)系のエンロフロキサシン(ERFX)に対する耐性率は、C. jejuni ではC. coli に比べて有意に低い4)。しかし、C. jejuni のアンピシリン(ABPC)耐性は、C. coli より唯一高率である5) 。特に、人の第一選択薬剤として推奨されるマクロライド系薬剤であるEM耐性は、C. jejuni では耐性株が認められていない3-5) が、豚由来株が中心であるC. coli で認められる。EM耐性C. coli の耐性機構は、標的部位の変異で、14員環マクロライドだけではなく15および16員環マクロライドにも耐性を示す2) 。

由来動物別で比較すると、C. jejuni ではOTCやキノロン剤に対する耐性率は、牛および肉用鶏由来株で高い。ABPCに対する耐性は、肉用鶏や採卵鶏由来C. jejuni で認められるが、牛由来C. jejuni や豚由来C. coli ではほとんど認められない5) 。また、ABPC耐性は、血清型O:8群で多く、血清型の関連が示唆されている3) 。

年次別に耐性率の推移を比較すると(図1)、大部分の薬剤に対する耐性率の変動は認められないが、C. jejuni C. coli ともにERFX耐性率は、上昇傾向が認められている。これは、鶏由来C. jejuni と豚由来C. coli におけるERFX耐性の増加が影響している。現在のところ、FQに対する耐性率が上昇した要因については不明である。カンピロバクターは、FQ剤の選択圧で容易に耐性菌が出現することがin vivo 耐性獲得試験(感染鶏へのFQ剤の投与実験)で明らかにされている。しかし、鶏用フルオロキノロン剤の承認用量は、各国間で違いがあり、日本では50ppm、3日間と制限されている。日本の承認用量でのin vivo 耐性獲得試験におけるFQ耐性株の出現状況は必ずしも既報とは同等ではないことが報告されている7) 。さらに、FQ剤を使用していない鶏群でFQ耐性C. jejuni の出現が観察されている6) 。また、FQ剤を使用していない農場においてFQ耐性Campylobacter が分離されている1) 。これらは、薬剤の使用状況を反映しない薬剤耐性菌の分布に関する知見で、耐性菌の出現や分布に様々な要因が存在することが示唆されている。

 参考文献
1) Asai T, et al ., Jpn J Infect Dis 60: 290-294, 2007
2) Harada K, et al ., J Vet Med Sci 68: 1109-1111, 2006
3) Harada K, et al ., Microbiol Immunol 53: 107-111, 2009
4) Ishihara K, et al ., Int J Antimicrob Agents 24: 261-267, 2004
5) Ishihara K, et al ., J Appl Microb 100: 153-160, 2006
6) Ishihara K, et al ., J Vet Med Sci 68: 515-518, 2006
7) Takahashi T, et al ., J Vet Med B 52: 460-464, 2005

農林水産省動物医薬品検査所 浅井鉄夫 小澤真名緒

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