B型肝炎の家族内感染例
(Vol. 31 p. 21- 22: 2010年1月号)

B型肝炎ウイルス(HBV)による母子感染は、1986年から開始されたHBV母子感染防止対策事業により激減したが1) 、水平感染に対する感染対策防止はない。

発端例は1歳5カ月の男児。5月下旬から鼻汁、咳嗽、発熱を認め、症状が持続するため、2009年6月中旬に近医を受診したところ、AST 481 IU/l、ALT 688 IU/lと、肝機能異常がみられたため、某病院へ入院となった。精査の結果、HBs抗原>250 IU/ml、HBe抗原1,410 S/CO、HBe抗体陰性、IgM-HBc抗体28.5 S/CO、HBV DNA>8.8 LC/mlであったため、急性B型肝炎と診断した。同居者は患児を含めて母方の祖父母と父母の5人であり、家族内検査を行ったところ、表1の結果を得た。すなわち、祖父がHBVキャリアと判明し、祖父からの水平感染と診断した。全身状態は良好であったが、7月にはAST 1,041 IU/l、ALT 1,101 IU/lとさらに上昇したため、精査加療目的にて当センターへ転院となった。転院後、再度家族内検査を行ったところ(表1)、1カ月前に陰性であった父のHBs抗原が陽転化し、HBV DNAは7.5 LC/mlと高値となり、4日間でAST 221 IU/l、ALT 234 IU/lまで上昇した(表2)。児、祖父、父のHBV genotypeはいずれもA2であった。祖父には献血歴があり、2年前の検診ではHBVキャリアは指摘されていなかった。患児と祖父母は、6カ月前から同居している。以上のことから、HBVの水平感染が、同居者内で母方祖父→孫→父へ伝播したものと考えられた。

経過:父はB型急性肝炎と診断し、某病院消化器内科へ紹介した。母は未感染であったため、水平感染予防のため3回のHBワクチンを投与した。患児は表3のごとく、肝炎発見時から5カ月経過して、肝機能は改善しIgM-HBc抗体は低下しているが、HBV DNA量は減少せず、現時点では慢性化する可能性が高いと考えている。

考察:近年、わが国では外来種であるgenotype Aの感染が特に若年男性で急増している2-4) 。一方で、女性の社会進出により、男性の育児参加の機会が増えている。本事例では患児に、世界的標準である全出生児に対するHBワクチン(universal vaccination)を施行していれば、患児と父へのHBV感染は防止できたと考えられる。この事例からも早急のuniversal vaccinationの導入を検討すべきである。

 参考文献
1)片山恵子,他, 医学のあゆみ 200: 3-8, 2002
2) Kobayashi M, et al ., J Med Virol 80: 1880-1884, 2008
3) Yoshikawa A, et al ., Transfusion 49: 1314-1320, 2009
4) Matsuura K, et al ., J Clin Microbiol 47: 1476-1483, 2009

恩賜財団済生会横浜市東部病院こどもセンター
乾あやの 小松陽樹 菅原秀典 十河 剛 藤澤知雄
国民健康保険富士吉田市立病院小児科 長嶺健次郎

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